介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その5

 

 

 今回説明するのは介護保険法の施設サービスです。

 介護事業を開業する場合、株式会社ではこのサービスに参入することはできません。

 

 介護保険法の施設サービスは社会福祉法人などの公益法人でないと事業を行うことはできないので、中小企業でも土地など豊かな資産をもっており、公益法人を設立できる財力がある企業でなければ、参入は難しいといえます。

 

 しかし、居宅サービスを営む場合でも、これらのサービスがどのようなサービスなのかを知っておく必要はあります。

 施設サービスはある意味、居宅サービスにとってのライバルであるので、相手に負けないサービスを目指す意味でも知っておくことは重要でしょう。

 今回は、そうした観点からの説明です。

 

 

居宅サービスと施設サービスの違い

 

 介護保険法の施設サービスは、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設(老健)・介護療養型医療施設の3つだけです。

 その他の介護サービスは基本、居宅サービスに分類されます。

 有料老人ホームは提供するサービスは特養と似ていますが、居宅サービスに分類されます。

 また、地域密着型サービスの中に、地域密着型介護老人福祉施設があります。

 こちらは小規模な特別養護老人ホームですが、居宅サービスに分類されるとともに、中小企業でも公募による参入が可能です。

 

 

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

 

 多くの方が、公設の老人ホームというイメージを持っているかもしれません。

 一度入所すると、亡くなるまでそこで暮らすイメージでしょう。しかし、規定上は自宅に戻ることを「念頭」に置いたサービス提供が求められており、終の棲家としての施設を前提としていません。

 

 しかし、入居基準が要介護3以上と変わったことで、実態としては、ほぼホスピス(終末期ケア)サービスを提供する施設になっていると言えるでしょう。

 

 利用者は、在宅生活が困難になった、低所得層の高齢者が中心です。さらに、医療的ケアが必要な方は入居できない場合があります。比較的認知症末期の方が多いかもしれません。 

 

 しかし、BPSD(≒問題行動)などが強いと入居ができない場合があります。そういう方は、精神科のある病院に入院される方も多くいらっしゃいます。

 

 認知症でも比較的穏やかな状態で、かつ下肢筋力が低下して歩行が困難になったような方が典型的な利用者でしょう。

 

 特別養護老人ホームは万能の介護施設のイメージがあるかもしれませんが、上述のように入居できる方はかなり制限されている部分があります。

 

 都会では特養待機者が沢山いるという報道がありますが、その待機者の中には在宅生活が可能な方や入居基準を満たしていない方(申し込んではいるが実際には入れない)も多くいらっしゃるようです。

 

 最近では、地方などで、空きが多く出始めている施設も増えており、入居基準を見直して、幅広い状態の方を受け入れていく必要もあるようです。

 

 

介護老人保健施設

 

 業界では「老健」と呼ばれる施設で、リハビリを中心として医療的ケアを行う施設です。

 

 典型的な利用者のイメージとしては、脳血管性の疾患などにより、身体機能に障害があり、在宅での日常生活が困難な方が、在宅復帰を目指して、医療的管理の下でリハビリを行うという感じでしょう。

 脳梗塞発症後の半身まひの方などが典型的な利用者です。

 

 あくまで在宅復帰を目指した施設ですが、実際には長期にわたり入所している方が沢山いらっしゃいます。

 その意味では特別養護老人ホームとあまり変わらないような状態になっている施設もあります。

 

 一般的には概ね6か月程度で自宅に戻る想定ですが、独居の高齢者などでは、在宅復帰への不安が大きい場合も多く、別の施設に移る方も多いようです。

 

 介護老人保健施設は医師が常勤している必要があるため、病院などに併設されていることがよくあります。

 これはあくまで筆者の主観ですが、介護老人保健施設を併設している病院に入院すると、そちらの施設を利用させられることが多いような気がします。

 在宅復帰の判断はあくまで医師がすることなので、経営上そのあたりのコントロールがされている感じがします。

 

 

介護療養型医療施設

 

 昔は、老人病院などと呼ばれていたこともあります。

 

 介護保険制度前の話ですが、筆者の母親は脳梗塞半身まひで筋力低下のため寝たきりでしたが、心臓弁膜症手術(弁置換)の既往があり、さらに褥瘡があったために(特養を含め)老人ホームに入居できず、死ぬまで病院で暮らしていました。

 

 在宅生活が困難な、医療的ケアの必要度が高い利用者を対象とした施設ですが、単体施設としての介護療養型医療施設は今年度末に廃止される予定です。

 

 今後は、先に説明した老人保健施設や病院の中の療養病床などでケアを行っていくことになるようです。

 

 施設により違いはありますが、やはり介護施設というより、病院のイメージが強く、たとえば食事はベッド上で摂らなければならなかったり、利用者のQOLを考えた場合、問題がある施設もあるようです。

 

 廃止になるのもその辺が理由かもしれません。

 

 

 この項おわり

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その4

 

 

 今回は、地域密着型サービスへの参入についてご説明します。

 

 

地域密着型はその区市町村の住民のための施設

 

 これまでご紹介してきた居宅サービスは、都道府県が事業指定し、利用者がどの区市町村(他の都道府県でも)に住んでいても利用ができる、サービスでした。

 これから紹介するのは、区市町村が事業指定し、原則、その区市町村の住民のみが利用するサービスです。

 

 

日本の介護保険サービスは区市町村の責任で提供する

 

 わが国の介護保険サービスは、基本的に各区市町村が地域住民の介護福祉に対して、行政責任を持つ形で設計されています。

 国民の老後のケアはそれぞれの人が住む、区市町村の責任で行うということです。

 従って、各住民の介護保険の管理も区市町村が行っており、いわゆる保険者という立場で介護事業を実施しています。

 

 

国は各区市町村の介護サービスを競争させている

 

 住民の健康や介護は区市町村の責任で管理していくのが基本原則ですが、国はこうした区市町村の取り組みを評価し、どの区市町村が良くやっているかを評価しています。

 本番の評価システムはこれから構築され予定ですが、評価自体は介護保険がスタートしたころより行っています。

 この、自治体は介護度の悪化が酷い、とか、この自治体は介護予防を頑張っているな、というような評価です。

 

 

地域密着型サービスの中心は介護予防

 

 各区市町村は国がいつでもチェックしているというプレッシャーを受けながら、事業を運営しています。

 そのため、現状、地域密着型サービスの中心は、住民を要介護にしない介護予防になってきます。

 たとえば住民の健康管理や、要介護状態のチェック、運動教室などがそうした事業です。

 しかし、この分野は、行政の責任で行っている場合が多く、一般的な介護事業所ではあまり参入する余地がありません。

 要支援(介護予防)のサービスについても、地域包括支援センターが指揮を取り住民の状態悪化防止に取り組んでいます。

 この、地域包括支援センターの運営も、社会福祉法人など専門組織の仕事になっています。

 

 

一般企業は補助金の出る事業に参入する

 

 これまでの居宅サービスとは異なり、地域密着型サービスの一部では施設建築費などの補助金交付出る事業があります。

 特に、グループホームや小規模多機能居宅介護事業所は、介護事業の経験が少ない企業でも比較的参入しやすい事業でしょう。

 土地を確保すれば、建物建築費の8~9割は補助金で賄えるようになっています。

 地域で小さく開業した介護サービス業でも、この補助金を活用することで、事業拡大を目指すことができるでしょう。

 

 

地域密着型サービスは公募制

 

 ただし、こうした事業を行うためには、区市町村の公募に参加し、コンペで採択されなければならないというハードルがあります。

 コンペで競合が居なければ良いのですが、多くの場合は複数の事業者がコンペに参加してきます。

 一部、都心などで土地が確保しにくい地域では、公募参加者がいないケースもあるようですが、土地が確保しやすい地域では必ず競争になると思います。

 

 

どのような企業が採択されるのか

 

 地域密着型がスタートした頃(10年ほど前)は、大手の介護事業者が採択されるケースが多かったと思います。

 これは、各区市町村にとっても初めて地域密着型サービスを設置するわけですから、できるだけ実績のある、大企業にお願いしたほうが安心であるという考えが働いていたからでしょう。

 

 しかし、一度大手がその地域に参入すると、その大手企業は二つ目の参入は難しいようです、時が経つにつれ、中小企業も公募で採択されるようになっています。

 

 ただし、それでも、介護事業の経営経験がある程度あったほうが有利ではあります。

 医療法人などであれば、その経験でも参入できるかもしれませんが、全くの別種事業者の場合は、なかなか難しいかもしれません。

 

 

公募で採択されるには

 

 地域密着型サービスに参入するには、他の介護サービス事業を数年経験し、安定した経営ができるようになってからの方が良いでしょう。

 行政は地元で地道に優良な事業を運営している企業を評価しやすいと考えます。

 さらに、母体となる企業(別種事業でも)がその地域で長く経営している場合は、そうした地元への貢献度も評価の対象となります。

 グループホームや小規模多機能居宅介護などのサービスは、一つの企業が各地にチェーン展開している場合も多く、行政としても同種事業を広く展開している経験を買う場合もあります。

 しかし、すでにそのような種類の企業が同地域に開業している場合は、経験は浅くても地元密着型の企業の方を評価することも十分あり得ます。

 

 

地域密着型サービスは介護事業参入の第2ステップ

 

 これまで述べてきたように、訪問介護などで介護事業に参入したのであれば、地域密着型サービスへの参入は事業拡大の第2ステップと考えるべきでしょう。

 地域密着型サービスに参入することで、すでに実施している介護事業にも相乗効果があると考えます。

 

 なお、地域密着型通所介護事業には補助金は出ません。この事業に参入する場合は地域ニーズをしっかり見据え、慎重に取り組むべきであると考えます。

 

 

 次回は、施設サービスについて説明したいと思います。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その3

 

 

 前回の続きです、さらに様々なサービス事業についてご紹介します。

 

 

居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)

 

 在宅のケアマネジメント・サービスを提供する事業所です。

 現状の介護給付費ではこの事業所だけで儲けを出すことは難しいのですが、他の事業所と合わせて経営することで、お客様の獲得という営業的な機能を発揮します。

 

 例えば、訪問介護事業所にケアマネ事務所を併設することで、訪問介護サービスの利用者を獲得しやすくなります。

 

 また、実際にケア・サービスを提供していく上で、ケアマネと訪問介護スタッフが同じ事務所に所属していると、情報の共有が容易になり、きめ細かいサービス提供をしやすくなります。

 

 従って、訪問介護事業所ではこのケアマネ事務所を併設しているところが多いでしょう。

 

 専門的な話になりますが、一つのケアマネ事務所が訪問介護の依頼を、併設の訪問介護事業所に集中させる場合、介護給付費が減らされるというルールがあります(集中減算)。

 

 しかし、実際には併設の訪問介護事業所だけでサービスを独占することは難しく、それほど心配することはありません。

 

 なお、集中減算は国の審議会でも問題視されている部分があり、今後、一定の条件下で緩和される可能性も示唆されています。

 

 ケアマネージャーは介護サービスの営業職的な側面があります。また、一方で、地域行政や各種介護関係組織・医療機関と密接に連携して、地域の介護サービスを推進させていく公的な役割も期待されています。

 

 在宅介護のケアマネージャーは、一つの地域にじっくり腰を据えて、良い仕事をしていくことで、地域での存在感が増し、所属する会社自体も地域から信頼を得ることができます。

 

 居宅介護支援事業所はケアマネージャーが一人いれば開設できます。他のサービスと併設する場合は、そのサービスの管理者も兼務できます。

 

 もし、この事業所を開設しようとする場合、最初に雇用する管理者となるケアマネージャーは、上記のような趣旨に照らして、人格のしっかりした、力のある人をじっくり選んで雇用するべきであると考えます。

 

 

福祉用具貸与・販売

 

 在宅介護で利用する福祉用具の貸与・販売をする事業所です。

 訪問介護事業所で介護福祉士が複数いる場合、この事業所の福祉用具専門相談員と兼務ができますので、兼業している事業所も多いですが、最近では訪問介護業務が忙しく、福祉用具まで手が回らないという状態の事業所が多くなっています。

 

 パナソニックなど大企業が参入していることもあり、福祉用具だけで儲けを出していくことはなかなか難しいといえます。

 

 ただ、ある程度の規模で、多様な在宅サービスを提供している会社であれば、この事業を行うことはメリットがあるかもしれません。

 たとえば、通所介護の送迎車は朝と夕方以外稼働していない場合があります。この送迎車を福祉用具用の運搬車に兼用することはメリットがあるでしょう。

 

 福祉用具は大きな倉庫設備を持つ、仲卸の業者から、用具を借りてまた貸しするような仕組みになっています。この仲卸業者から用具を運搬して設置する業務を、自社で行うことで、収益を上乗せできます。

 

 この仲卸業者は概ね商社などの巨大資本をバックに持つ会社が運営しています。配送をやらせてくれるかどうかは、業者により扱いが異なりますので、開業する前に確認が必要です。

 

 なお、福祉用具専門相談員の資格は50時間の比較的安価な研修を受講すると取得できます。

 

 

訪問入浴

 

 訪問入浴は車に浴槽とお湯を沸かすボイラーを積んで、在宅入浴を提供するサービスです。

 

 改造車などの設備投資が必要になります。また、大きな折り畳みの浴槽を運搬しますので(公営団地では5階まで)、ある程度体力のあるスタッフが必要になります。

 

 介護スタッフ2名プラス看護師が規定人員になりますが、看護業務としては比較的簡単な業務なので、現場を離れて看護の仕事に自信がない看護師さんでも比較的就業しやすい業務でしょう。

 

 訪問入浴の介護職は夜勤が無い仕事の中でも、最も稼げる仕事になっています。従って収入の欲しい、体力のある男性が応募してきます。

 こうした男性職員は向上心がある方も多く、将来、会社のコアスタッフとして活躍する場合もあるようです。

 

 開業する場合は、資金が必要なうえに、地域によってはサービスが飽和状態である場合もありますので、しっかりマーケティングする必要があります。

 

 

通所リハビリテーション(デイケア)

 

 一般の方には、リハビリデイサービス(リハビリ特化型通所介護)と区別がつかないかもしれません。

 

 リハビリデイサービスはあくまで通所介護事業所で、特徴を表すために、リハビリデイサービスと宣伝表示しているだけです。

 

 通所リハビリテーションは通所介護とは異なり、医師と理学療法士などが在籍する、医学的リハビリサービスを提供する事業所です。

 通常、整形外科などに併設されている場合が多いでしょう。

 

 母体が医師のいる医療関係であれば開設のメリットはありますが、そうでなければ開業は避けた方が良いと思います。

 

 

 

 次回は、地域密着型のサービスについてご紹介します。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その2

 

 

 他業種から介護福祉事業に参入しようとした場合、どのような事業を手掛けていけば良いのか悩むところだと思います。

 今回は沢山ある介護福祉事業のうち、どのような事業が参入しやすいのか。さらにメリットやデメリット、留意点について代表的なものをご紹介します。

 

 

訪問介護

 

 訪問介護事業は最もイニシャルコストが安く、かつニーズも高い事業です。そのために介護事業を始める際には、最初にお勧めしたい事業です。10坪ほどの事務所があって有資格者が確保できれば開業できます。

 

 資格は既存の従業員でも研修を受ければ取得できます。また、経験者を雇用すれば仕事も問題なくこなせると考えます。

 

 また、指定訪問介護事業はそのまま、指定障害者居宅サービス事業を兼業できます。障碍者向けの訪問介護事業ですが、こちらも将来的に非常にニーズが高い事業ですから、お客様が絶えない状況です。

 

 現在、訪問介護事業所では人手不足でお客様の要望に応えられない事業所も多くなっており、開業後すぐに経営が軌道に乗る事業所が多いといえます。

 

 

訪問看護

 

 こちらもイニシャルコストの低い事業ですが、看護師を確保しなければなりません。

 看護師が確保できれば訪問介護と一緒に開業することでシナジー効果があります。

 訪問介護は介護以外に医療保険の業務も可能です。

 

 やはり将来的に非常にニーズの高いサービスであり、ご利用者が途絶えることは無いでしょう。

 医療費の財政負担を減らしていきたい我が国にとって、在宅診療は、今後大きく伸びるサービスです。

 

 また、地域に住んでいる主婦の看護師さんが子育てをしながら働く場所として最適な事業です。そうしたパート看護師をうまく確保できれば、事業は順調に伸びるでしょう。

 

 ただし、訪問看護は病院勤務と異なり、一人で患者さんのご自宅を訪問してサービスを提供しますので、病院でチームでしか働いたことの無い看護師さんにとっては少々ハードルの高い部分がありなす。労務管理の中でそうした不安を払しょくできる工夫が必要になります。

 

 訪問系の事業はスタッフの仕事に対する不安や悩みを解消できるかどうかが人員を定着する上での大きなポイントです。

 

 

通所介護(デイサービス)

 

 介護業界を知らない一般の方にとって通所介護は開業しやすい事業というイメージがあったようです。事実、少し前まで、未経験の事業者が沢山参入してきた経緯があります。

 

 その代表がお泊りデイサービスで、空き家を改造して認知症の方の宿泊を受け入れられる通所介護でした。

 行き場のないお年寄りの受け入れ場所として一時脚光を浴びました。

 事業としても毎日宿泊利用するご利用者がいると、宿泊費をとらなくても、介護給付だけで一人当たり30万円以上の売り上げがあるので、誰でも簡単に開業でき、すぐに経営が軌道に乗るとして、フランチャイズ化もされもてはやされました。

 

 しかし、介護の質や夜間の管理体制などに問題が多く、行政から連泊に制限が出されたり、スプリンクラーなどの設備投資の追加や、地域によっては開業が禁止されたりしたために、いまではほとんど新規開業は見られません。

 

 通所介護は訪問介護などに比べればイニシャルコストが高く、最低でも1500万円程度の設備投資が必要な事業です。

 

 最近の低金利で融資が受けやすいために、リハビリデイサービスなどで、他産業からの参入も多いのですが、地域によっては供給過剰気味であり、小規模多機能などの他のサービスとの競合や介護給付費の減額もあり、最初に手掛ける事業としてはハードルが高い事業と言えます。

 

 自社所有で100平米程度の床面積を低コストで確保できる場合など、条件が合えば検討しても良いでしょう。しかし、その場合でも、訪問介護事業所を併設する等して、通所介護だけを単独で開業しない方が良いと考えます。

 

 ただ、比較的スタッフのが確保しやすい事業ですので、資金や地域ニーズなどとの関係を考慮して検討しても良いでしょう。

 

 

有料老人ホーム

 

 資金が潤沢であり、会社に体力がある場合は新規事業として検討する事業者もあるかもしれません。建設業や不動産業から有料老人ホーム事業に参入した会社も多く、最近ではソニーなど大企業も参入しいます。

 

 筆者としては、有料老人ホーム事業は介護福祉事業というよりも、老後の生活を支えるサービス業としての視点が必要だと考えています。

 

 高級な老人ホームは自費負担も大きいので、お客様が限定的になります。また、逆に住宅型などの場合、低所得者(生活保護者を含む)をターゲットにした事業形態もあります。

 資金力だけでなく、ある程度、高齢者のニーズをマーケッティングする力が必要になります。

 

 また、都心部では介護保険予算の負担が大きいため、包括型の老人ホームの開業を区市町村が制限している場合があります。都心部で在宅生活ができなくなった高齢者が郊外の有料老人ホームに転居するパターンも多く、そうしたニーズを把握しなければなりません。

 

 さらに、サービスの質の管理が重要です。虐待などの問題が発覚すると、退所者やスタッフ離れが起こり事業が立ち行かなくなる場合があります。人手不足の中、スタッフの業務管理・労務管理を疎かにすると経営が困難になりやすいのもデメリットでしょう。

 

 

 次回も様々なサービスについてご紹介します。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その1

 

 今回から他の業種から介護福祉事業へ参入する方法についてガイドしたいと思います。

 特に、中小企業事業者が参入しやすい事業ですので、その点を留意してご説明できればと思います。

 

介護福祉事業の参入メリットについて

 

①国の社会保障システムに組み込まれた安定事業である

 高齢者や障害者の生活を保障する仕組みは、先進国では当然のシステムであり、国が責任をもって保障しなければならない事業です。

 そして、我が国はこの分野の整備が他の先進国よりも遅れており、今後さらなる充実が要請されています。

 今のところ筆者が開業をお手伝いした会社のほとんどが継続的に事業を経営しています。

 

②地域に貢献できる事業である

 たとえば、親の代より地域に根差して経営をされているような中小企業であれば、地域における存在感がより増す事業であり、将来にわたり地域での存続を可能にします。

 

③女性が活躍できる職場である

 女性が生き生きと仕事ができる職場を地域に創造することができます。これはワークライフバランスという観点で地域にとって、とても意義があることです。

 

④コスト競争、シェア争いの悩みが少ない

 支援の必要な高齢者や障害者は今後おそらく50年程度増え続けます。誠実なサービス提供を続けていれば、コスト削減に頭を悩ませたり、他社とのシェア争いに巻き込まれることはありません。

 国は社会保障費を抑える目的もあり、病院や施設でケアを受けている高齢者や障害者の在宅ケアを強く推進しています。

 そのため、今以上に在宅ケアニーズが高まっていくことが想定されています。

 

⑤開業コストが極めて安い

 もし、事務所などがすでにあるならば、訪問介護や看護であれば、コストはほぼ人件費だけです。

 保育事業などは施設整備に費用が必要ですが、介護は極めて安価に事業が開始できます。訪問介護などで実績を積んだ上で、規模の大きな事業へと着実に展開していくことで、安定した成長が期待できます。

 

⑥自治体の補助金が使える

 地域密着型のグループホームや小規模多機能などであれば、建築費のほとんどが補助金で賄えます。

 土地をお持ちであれば、他の不動産投資などよりも断然有効な活用ができます。

 

 

では、デメリットは?

 

①あまり儲からない

 会社経営で大成功を狙っているのであれば確かに急成長できる業種ではありません。しかし、長く安定的な事業経営を望むのであれば最適です。

 

②人材確保が難しい

 2016年11月現在、介護職の有効求人倍率は3.4倍です。しかし、まったく求職者が来ないわけではありません。介護事業の場合地域での口コミの評判が物を言う場合があります。働きやすい職場づくりができれば、少しずつ人は集まり定着すると考えます。

 人材の確保と定着のノウハウについてはこちらをご覧ください。

「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」https://carebizsup.com/?p=827

 この業界ではスタッフの定着に失敗すると経営ができません。経営がうまくいかない事業者の多くが人材が定着しない会社です。

 

③全くの他業種から参入する場合、何も経験が無くて良いのかという不安

 経営者に経験が無くても、スタッフは有資格者の経験者が集まりますので仕事自体は問題ありません。また、経営者も開業前に介護初任者研修などを受講し、3年から5年経営すれば、概ね業界の姿は見えてくるでしょう。

 基本的には閉鎖性のない業界です。未経験でもやる気さえあれば誰でも参入できます。

 

④仕事が大変そう、3K職場である

 確かに(特別養護)老人ホームでの介護では体力が必要な部分もあります。しかし、在宅援助の場合、多くがそれほど体力を必要とする業務ではありません。訪問介護では70代の女性ヘルパーも活躍しています。

 介護現場の3Kイメージの多くは重度の方々のお世話をする施設介護のイメージと言ってよいでしょう。

 むしろ必要なのは対人援助のスキルや医療や障害の知識であり、そうした能力に優れた事業者であれば、キタナイやキケンは仕事として適切に対処できるものです。

 また将来的には、体力の問題も、福祉機器などの進歩で解消されてくると考えます。

 

 

産業構造が大変化しても生き残るために

 

 これからの50年で日本の産業構造は、それまでの50年に比べ劇的に変化すると考えられます。

 例えば、親の代に会社を興し経営を続けてきたが、このまま同じ事業で会社を継続していけるか、不安に感じている中小企業経営者の方には、特にお勧めしたい事業です。

 起業した地域で少なくとも50年は継続的に事業を営むことができます。

 工場や事務所などの経営資源も再利用できますし、従業員も雇用し続けることが可能です。

 

 次回は、具体的などのような事業参入が可能なのかをご説明します。

 

 

 

 

混合介護で生活援助はどう変わるのだろう(訪問介護)

 

軽度者の生活援助が保険外へ

 

 介護予防・日常生活支援総合事業が始まり、要支援者の生活援助が、介護給付以外のサービスに変わりつつあります。

 

 日常生活支援総合事業の生活援助は単価も安く、既存の訪問介護事業で対応するには見合わないという声もあり、自治体によってはシルバー人材センターなどの対応に切り替わっているところもあります。

 

 流れとして単なる生活援助のみの介護は無くなる方向なのでしょうか?重度の方は別としても軽度の利用者の生活援助をどうしていくのか、訪問介護事業所経営の観点から考えてみたいと思います。

 

 

人手不足で生活援助だけの仕事に対応ができない

 

 現在、訪問介護は人手不足で、身体介護でさえも対応できない場合があるのに、単価の安い生活援助はもう対応できないという声をよく聞きます。

 

 身体介護に付随した生活援助は仕方ないとして、軽度者の生活援助はもう昔のようには提供できなくなっている実態があると考えます。

 

 この流れは国の介護保険から生活援助を切り離す方向とも合致しており、自立支援に繋がらない生活介護は減っていく方向なのでしょう。

 

 

訪問介護は重度者向けのサービスが中心に

 

 もともと訪問介護員は、家政婦からの転職も多く、介護保険制度発足時は生活援助が盛んに提供されてきた経緯もあります。要支援者の部屋の掃除も昔は普通にケアプランに載せられますが、今はなかなか難しい状況でしょう。

 

 訪問介護事業所の経営者の中には生活援助のみの利用者は断って、身体介護中心にサービス提供をしたい意向も強くなっています。

 また、医療的ケアなどレベルの高い訪問介護をサービスの中心に据えることで、生活援助をほとんど行わない事業所もあります。

 

 実は、医療的ケアに積極的に対応すると、障害者サービスを含め、その依頼だけで手が一杯で、通常の訪問介護には対応できない状況になる場合もあるようです。

 それだけ重度者向けサービスは不足しているのかもしれません。

 

 実際その方が収益性も高く、筆者はこれからの訪問介護はレベルの高いサービスを提供することで生活援助は行わない方向で経営したほうが良いと考えています。

 

 

混合介護における生活援助の位置づけは?

 

 国は次期改正に向けて、保険外のサービスと介護保険サービスを組み合わせて提供する混合介護について検討しています。

 訪問介護事業では保険外の生活援助をどのように組み合わせるかが大きなテーマとなっているでしょう。

 

 先に述べた通り、今後の訪問介護事業所はできるだけ重度者向けのサービスを充実させ、身体介護中心の提供体制になる方向であると考えます。

 

 しかし、訪問介護が生活援助を行わない場合、だれがどのようにそのサービスを提供し、介護保険制度や障害者福祉制度の中での位置づけがどうなるのか疑問が多いでしょう。

 また、そのサービスが混合介護として訪問介護事業に組み込まれるのでしょうか?

 しかし、それであれば、現在でも行っている生活援助を自費化したサービスと何が違うのでしょうか?

 さらに、現状では経営的に生活援助のサービスは合わないわけですから、そのような混合介護に意味があると思えません。

 

 

保険外・低コストの家事代行事業との連携

 

 保険外の生活援助サービスを外部の独立したサービス事業者が実施するとすればどうでしょう?(これを混合介護というのか疑問ですが)

 

 確かに、買い物代行や掃除といったサービスは訪問介護員である必要はありません。それは軽度の利用者だけでなく、重度の利用者でも同様でしょう。

 

 そうした簡易なサービスがケアマネジメントの中で社会資源として位置づけられ、適切に提供されれば、提供主体は学生のアルバイトでも構ないわけです。

 

 しかし、自宅に訪問して提供する以上は、訪問介護と同様に手順書的なものが必要にはなるでしょう。その場合、訪問介護事業所とのどのような協働体制を築けば良いのでしょうか?

 

 例えば、低コストで保険外サービスを提供できる家事代行事業者が、訪問介護事業所と連携し、無資格のアルバイトによる生活援助も、訪問介護計画書の中でその自立支援の役割が適切に位置づけられることができ、さらに、訪問介護員の管理の元でサービス提供ができれば、保険外の低コストの生活援助も可能かもしれません。

 

 しかし、それを実現するためには、

 保険外事業者と介護事業の調整を誰がどうやるのか?

 訪問介護事業所にとってどんなメリットがあるのか?(なにがしかインセンティブがなければ誰も連携しません)

 保険外事業者に収益性は見込めるのか?(見込めなければ誰も参入しません)

 など、多様な問題があり、それらをクリアする枠組みを厚生労働省が提示できるのか、いささか疑問です。

 

 今のところ、ダスキンやベアーズといった家事代行ビジネスはプレミア感のある高付加価値なサービスモデルが主流になっています。

 高齢者や障害者に必要な家事代行は、そのようなプレミアムなものではないでしょう。国中が人材不足の中で、簡易で低コストの家事代行ビジネスモデルが成り立つか、IT活用するなど民間の力がなければ不可能な気がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

「共生型サービス」とはどのようなものか

改正の目玉「共生型サービス」

 

 次期の介護保険制度改正で始まる「共生型サービス」とはどのようなものでしょう。

 

 この新しいサービス形態について、厚生労働省はガイドライン(案)を3月に発表しました。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000117428.pdf

 

 国の説明では、「高齢者と障害(児)者が同一の事業所でサービスを受けやすくするため、 介護保険と障害福祉、両方の制度に新たに共生型サービスを位置付ける。(注)具体的な指定基準等の在り方は、平成30年度介護報酬改定及び障害福祉サービス等報酬改定にあわせて検討。」と説明しています。

 

 ただし、上記のガイドライン(案)には障害者以外に保育も視野に入れており、児童福祉法も改正対象になると思われます。

 

 

介護サービスと障害サービスの兼業

 

 これは、訪問介護と同様に、介護保険サービスと障害者福祉サービスを同時に提供できる制度を、他の事業にも広げることであると考えます。

 また、保育事業も視野に入れていますので、地域の実情に応じて、たとえば、通所介護事業と保育事業を同じ施設で実施できるということでしょう。

 

 ただし、要介護高齢者と障害(児)者が同時にサービスを受ける風景をイメージするのはどうやら違うようです。

 全体として、まだはっきりとした基準は示されていませんが、ガイドラインには「同じ場所において、サービスを時間によって高齢者、障害者、児童等に分けて提供する場合は、各サービスの提供時間において、各制度の人員・設備基準等を満たしていれば、同じ施設を時間帯によって異なる福祉サービスとして使用することは可能である。」と明記していますので、営業時間を変えなければ兼業は不可ということでしょう。

 

 

通所介護事業所で他のサービスを提供する

 

 例えば高齢者の通所介護の場合、現実的にどのような兼業体制が可能なのか考えてみます。

 

 この場合、人員基準や設備基準はひとまず脇に置いておきます。各サービスの設置基準はガイドライン(案)に出ていますのでご参照ください。

 

 ここでは、実際に共生型サービスが経営的にどの程度有効なのかをシミュレーションしてみたいと思います。

 

 

通所介護と放課後等デイサービスの兼業

 

 ポイントとなるのは、営業時間でしょう。

 高齢者の場合、ニーズは平日の昼間です。

 放課後等デイサービスは、放課後等ですから、平日午後や、場合によっては休日が営業時間のメインになると考えます。

 

 放課後等デイサービスは、最近ではチェーン展開をする法人もあり、ここのところニュービジネスとして注目されています。地域によっては過当競争になっているという話もあります。

 

 高齢者デイサービスと放課後等デイサービスの兼業体制が可能であれば、この動きにさらに拍車がかかる可能性があります。

 

 高齢者デイサービスの収益性が低下している現状で、放課後等デイサービスが同じ施設で兼業できれば、生産性の向上が期待できるかもしれません。

 

 

既にある通所介護の兼業モデル

 

 実は、機能訓練型のデイサービスでは、平日昼間はデイサービス、夜や休日は簡易的なトレーニングジムとして一般の利用者に有料で開放しているビジネスモデルは既にあります。

 

 開設当初から、機能訓練型デイサービスとスポーツジムを兼業する形で設備を導入する方法は今後も有効なビジネスモデルであると思います。

 

 

放課後等デイサービスと営業時間を分ける

 

 では高齢者デイと放課後等デイサービスではどうでしょう。

 

 一般的に放課後等デイサービスの営業時間は、平日であれば午後3時前後から夕方まで、休日は午前中から夕方までというパターンが多いようです。

 具体的にはこちらをご参照ください。

https://h-navi.jp/column/article/35025515

 

 つまり、高齢者デイを3時まで営業し、それから夕方までと休日を放課後等デイサービスで営業することは可能です。

 

 

設備や送迎車両は兼用可能

 

 ただし、設備に関しては、障害児の受け入れのための設備の在り方と高齢者の受け入れの設備の在り方はは若干異なると考えます。

 

 たとえば、高齢者はイスとテーブルが必要ですが、障害児はクッション性の良い床材を敷き詰め、動き回って遊べるフロアが必要になります。兼業するには、毎日の模様替えなど、運営方法の工夫が必要になると考えます。

 

 

人員基準は緩和が必要か

 

 放課後等デイサービスの乱立により、サービスの質が問題化しており、国はこの事態を受けて、人員基準を厳しくしました。

 

 人員要件の一つに、「児童発達支援管理責任者」がありますが、この任用基準が厳しくなりました。

 かつてのように高齢者介護の実務経験だけでは任用できなくなり、そのため通所介護の生活相談員がそのまま兼務することが難しくなっています。

 30年の改正でどうなるかはわかりませんが、共生型サービスを推進するためにはこのあたりの基準緩和が必要そうです。

 

 また、別途研修受講が必要です。研修については以下をご覧ください。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shinsho/shienhoukanrenkensyu/sabikann.html

 

 

放課後等デイサービスのニーズは地域で大きく違う

 

 都の教育委員会で仕事をしていた時、東京の特別支援教育の予算は他府県に比べ、非常に手厚く、障害児を育てる親御さんが、都立の特別支援学校に入学するために、わざわざ引っ越してくるという類の話を良く聞きました。

 

 一方、その分、都内の区市町村の通常学級での障害児受け入れがあまり進んでないという状況もあります。

 

 また、障害児の放課後の受け入れを自治体がカバーしているケースもあります。障害児向けサービスの体制は、地域により大きく事情が異なります。

開業する場合は、地域の状況を良く調査したうえで、ニーズを把握することが重要です。

 

 

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その2

スタッフ世話不足悪循環

 

 サ責や管理者が現場に出ずっぱりの事業所の場合、訪問スタッフが現場で対応に困った時、すぐに携帯電話で相談したくてもサ責や管理者が携帯電話に出られない状況がよくあります。

 

 自分一人で対応できない場合、適切な相談と指導が受けられず、スタッフは途方に暮れてしまうかもしれません。新人スタッフであればそれが原因で職場を辞めてしまうこともあると考えます。

 

 現状では、人手不足で、サ責や管理者がサービスに出なければ、とてもご利用者の対応ができないという事業者が多いのではないかと考えます。

 深刻な介護人材不足がそのような状況を作り上げているのですが、場合によっては収益率を上げるために、責任者が現場に出なければならないという事情もあるかもしれません。

 

 しかし、これがスタッフが定着しない悪循環を作り出します。

 筆者はこれを「スタッフ世話不足悪循環」と呼んでいます。

 

【スタッフ世話不足悪循環】

人手不足(又は収益増圧力)→責任者が現場に出ずっぱり→スタッフの世話ができない→スタッフの不安増幅→スタッフが辞めてしまう→スタッフが定着しない→人手不足

 

 

 

訪問系スタッフが安心して働けるようにするためには相談指導体制の構築が重要

 

 まずは、なんとかして【スタッフ世話不足悪循環】から抜け出さなければなりません。

 そのためにはサ責や管理者の訪問回数を減らすのですが、それなりの覚悟が必要になると考えます。

 

 新規利用者のアセスメントやサービス担当者会議などで、まったく外に出ないことは不可能ですが、朝や夕方などサービス利用の多い時間帯、新人スタッフが単独で業務に入っている時や、困難ケースなどでトラブルの発生が予想される場合など、連絡が入ってくる可能性がある時間帯だけでも、できるだけ電話に出られるように工夫することが必要です。

 もしも、サービス提供責任者が複数在籍していたり、サービス提供責任者でなくても利用者情報に詳しいベテランのスタッフなどがいる場合は、シフトを工夫して、相談を受けられる誰かが必ず事務所で待機できるように体制を整備すると良いと思います。

 

 また、特に新人スタッフに対しては仕事に自信が持てるように、仕事の不安を払しょくできるような相談指導体制を作ることが重要かと考えます。

 事業所の中堅以上の職員はそのことを強く意識しながら新人スタッフに当たるように事業所内のコンセンサスとして確立したいものです。

 

 

気軽に相談できる雰囲気作り

 

 新人スタッフの世話では、管理者やサービス提供責任者だけでは目が行き届かない部分もあります。そのため、在籍するスタッフが全員、新人の相談に積極的に乗れる組織作りができると良いと思います。

 

 単独で仕事をしている訪問系サービスの場合、どうしても他人の仕事に無関心になりがちです。気軽に誰にでも相談できる雰囲気作りをするために、スタッフが溜まりやすい休憩場所や事務仕事を共同でできるような事務室を作るのも良いでしょう。

 

 

相談指導体制の整備には情報共有体制の整備から

 

 訪問介護の特定事業所加算ではスタッフが利用者情報を共有することが求められていますが、訪問系サービスでは、この情報共有体制の構築が相談指導体制を充実させるための要件となってきます。

 

 もしも、現場のスタッフからSOSの連絡があり、事務所に他のスタッフがいて、そのスタッフが実際にその利用者に直接サービスを提供したことが無くても、利用者について少しでも情報があれば、完璧でないとしてもなんとか対応が取れる可能性があります。

 

 事務所にいるスタッフが利用者ファイルの介護経過やアセスメントなどにより状況を把握し、スタッフ同士で話ができることは、現場スタッフにとって非常に心強いことでしょう。一人で現場で悩むよりもずっと安心感があります。

 

 

情報共有体制に必要な利用者ファイル作り

 

 スタッフが悩んだ時、利用者ファイルを見ればヒントが見つかるようなファイル作りが必要です。

 そのために、利用者ファイルにはあらゆる情報ファイリングしておくことが大切になるでしょう。

 サービス提供責任者は現場からの利用者情報を逐一吸い上げ、ファイリングすることが重要です。サ責の第一の仕事は詳細な利用者情報のファイリングと言っても良いほどです。

 そのため、個人ファイルの最初になんでも書き込める用紙をファイリングしておくと良いと思います。記事とともに日付と記入者を必ず書いておきます。

 

 

現状ではネットやクラウドなどでは詳細な情報蓄積は難しい

 

 ネットを使って利用者情報を現場でもスマホなどで見られるようにすることは情報共有のための方法として有効でしょう。

 しかし、紙のファイルとネット上の情報が二つある場合は、情報が分散し、現場で必要な情報が手に入らない場合がありますので注意が必要です。

 

 現状では、スタッフ間でネットで情報伝達をしたとしても、最終的には紙のファイルに一元集約し管理したほうが効率的に情報管理ができるのではないかと考えます。

 

 ネットでの一元管理するためには、利用申込書からアセスメント、診断書や保険証、薬剤情報などもすべてデジタル化してネットにアップする必要があります。作業が煩雑ですしデジタルスキルに秀でた人でないとなかなか管理ができません。

 

 利用者に関する情報はメモも含めてすべてファイリングするやり方が、今のところもっともすぐれた情報共有方法だと考えます。

 

 

効率的なスタッフ会議の開き方

情報共有及びケアカンファレンスとしてのスタッフ会議はスタッフ間の連携を密にする意味でとても有効です。開き方については前回の記事をご覧ください。

 →訪問介護「特定事業所加算」で必要なスタッフ会議の進め方

 

 

次回はパートスタッフの定着術についてもう少し詳しく説明します。

 

 

訪問介護事業所の障害者福祉サービスへの参入 メリットとノウハウ その2

前回の続きです。

 

高齢者サービスと障害者福祉サービスの違い

 

 さて、介護職として、高齢者介護以外経験がない場合、障害者介護は不安に感じるかもしれません。しかし、介護認定を受けている高齢者も障害者には変わりありません。障害の原因が加齢によるものであるだけです。

 もちろん障害の種類によって状況は様々です。そうした障害の理解は学ばなくてはならないでしょう。しかし、介護福祉士であればそうした障害の種別は一通り学んでいるはずです。介護の研修カリキュラムは高齢者以外の障害種別も基本的に網羅していますで、担当した障害者の状況についてきちんとアセスメントし勉強すれば、知識としては十分に対応できると考えます。

 高齢者との大きな違いは、比較的活動性や自立意識が高いため、介護者との関係が対等な場合があります。また、介護サービスを活用しようという意識が高いこと。身体障害者の場合、多くは障害受容のトレーニングを受けていおり、障害とともに生きていくことの覚悟がしっかりできているため。非常にスムーズなサービス提供が可能な一方、精神障害の方などコミュニケーションに課題を抱えている場合も多いので(頻繁に電話がかかってくるなど)、高齢者よりも受容的な態度が必要になるケースも多いようです。

 いずれにしても一人ひとりの心身の状況をしっかりアセスメントして課題解決のアプローチをすることは高齢者となんら変わりはありません。

 

 

利用者獲得方法 

 

 高齢者介護サービスの場合、地域包括やケアマネ事務所へ個別の営業を積んでいかなければ仕事の依頼は来ませんが、障害者サービスの場合は地元自治体の障害福祉担当に挨拶に行くだけで仕事の依頼が来る場合があります。また、高齢者の居宅支援事業所と同じような相談支援事業所があります。高齢者と違い一人の相談支援員が受け持てる利用者数が多く、一人の相談支援員から次から次と依頼がある場合もあります。地域の事業所数も少ないため営業先も少なくて済みます。中には訪問系障害者サービスの事業指定の公示を見て早々に電話をしてくる担当者もいらっしゃいます。地域によっては高齢者以上に需給バランスがひっ迫している状況もあるようです。

 ちなみに、平成26年度全国の訪問介護事業所の数は33,991に対し、障害者の居宅介護事業所数は19,872です。しかし、指定は取っていても実際には障害者サービスの依頼を受けていない(人手不足で受けられない)事業所も多いようです。

 

 

医療的ケアの取り組みにより、特定事業所加算Ⅰの取得 

 

 喀痰吸引や胃瘻などの医療的ケアはハードルの高いサービスと考えている訪問事業者も多いかと思います。しかし、実際にはご家族が日常的に行っているケアであり、介護福祉祉士が適切な研修を受けて行えば、決して難しいケアではありません。

 ケアの研修(3号研修)も基本的な研修は2日で終わりますし、直接ご利用者に対する実地研修もそれほど負担ではありません。

 医療的ケアができるということは、すなわち利用者が重度になるということです。すると、重度者を多くケアしている事業所に加算できる特定事業所加算Ⅰ(20%)が取得できる可能性が出てきます。これは収益上、大きなメリットになると考えます。

 実際、国の方針もあり、病院や施設から在宅生活を目指している障害者の方が沢山いらっしゃいます。そうした方への医療的ケアニーズは非常に高く、事業者が足りない状況と言えるでしょう。

 また、重度利用者は毎日ケアが必要であり、業務のボリュームも大きく、スタッフさえ確保すれば、安定した収益を上げられる仕事であると考えます。

 

 

連携する訪問看護ステーションがあるとメリット大 

 

 これまで施設や病院で暮らさざるを得なかった重度障害者の在宅ケアを実現していくには、家族負担の大きかった医療的ケアを訪問介護員により行っていくことがとても重要です。

 医療的ケアの実地研修にはそのご利用者のケアを行っている訪問看護ステーションの協力が無ければ実施できません。訪問看護師に医療的ケア教員講習(1日)を受けてもらう必要もあります。このため、連携する訪問看護ステーションがあるとサービス提供がスムーズに行えるでしょう。

 既に医療的ケア教員受講者の多くいる訪問看護ステーションと連携できればメリットは大きくなります。さらに、訪問看護師との業務の連携が綿密にできれば、利用者にとって利便性の高いサービスが提供できるでしょう。

 そのため、医療的ケアを多く実施している訪問介護事業所では事業を拡大して訪問看護ステーションに参入しようとしている事業をも多いようです。

 

 

障害者福祉サービスの新たなフィールドへの展開

 

 訪問系の障害福祉サービス事業を手掛けることで、障害福祉サービスのフィールドをさらに広げていくことも期待できます。

 相談支援や就労支援事業はまだまだ不十分であり、特に、精神障害者の社会参加のサポートはかなり遅れているのではないかと考えます。

「障害福祉サービスの体系」厚生労働省

 

 訪問系のサービスから将来、新たなサービス事業へ拡大していくことは経営戦略の面で有望であると考えます。

 最近では児童デイサービスのチェーン展開をする会社も現れていますが、障害福祉サービスは地域自治体との関係が重要です。地域にどのようなサービスが不足しているのか自治体に取材してから事業展開を考えることが必要であると思います。

 最後に、障害者介護を専門に働いている介護人材がいます。そうした人材はこの分野への興味も強く、そうしたスタッフとの出会いが新たな事業フィールドへの展開を可能にしてくれる場合もあるでしょう。

 この回終わり。

 

訪問介護事業所の障害者福祉サービスへの参入 メリットとノウハウ その1

在宅障害者福祉サービスにビジネスチャンス

 

 近年、障害者福祉に関する法整備が進み、それまで家族や医療・公的機関だのみだった障害者介護で、民間サービスが広く利用できるようになりました。

 これまでは一生病院や施設暮らしであった重度の障害者の方でも、在宅サービスを受けながら、家族と生活できるようになるなど、積極的な利用が広がりつつあります。

 そうしたなか、これをビジネスチャンスとして、事業を拡大している民間企業も多く表れてきており、先にご紹介した製造業から参入して3年足らずで月商300万円を超える売り上げを上げている、サンシャインヘルパーセンターも業務の半分が障害者サービスとなっています。障害者サービスが事業成長をけん引してきたと言っても過言ではないでしょう。

 ここでは、従来の高齢者向け訪問介護事業所が訪問系障害福祉サービスに参入するメリットやノウハウについご紹介したいと思います。

 

 

訪問介護と訪問系障害福祉サービスの兼業

 

 指定訪問介護事業所は同時に訪問系の障害者福祉サービスの事業指定も申請できます。

 居宅介護(障害者訪問介護)・重度訪問介護は特に研修などは必要なく、訪問介護事業所の人的資源をそのまま利用して、事業を行うことが可能であり、高齢者とは別の収益源として期待できます。事業所によっては高齢者よりも障害者サービスのウェートが大きくなっている事業所もあります。

 居宅介護、重度訪問介護の他にも視覚障害者のガイドヘルパーである同行援護や知的障害者(児)の行動援護も開業可能ですが、同行援護は、今後、同行援護従業者養成研修を修了することが要件になります。また、行動援護は知的障害者(児)の実務経験が必要になりますので、高齢者の訪問介護事業指定基準をクリアしただけでは開業はできません。

 また、自治体によっては障害児向けの通学支援などの移動支援サービスを独自に導入している場合があり、このサービスを受託することは概ね可能であると考えます(自治体により要件が異なる場合あり)。

 

 

新規立ち上げの事業所にはメリット大

 

 すでに訪問介護事業を開業されている経営者の中には「人手不足で高齢者の訪問介護だけで手一杯。とても障害者の対応までするのはムリ!」という事業者もいらっしゃるかもしれません。しかし、新規に訪問介護事業所を開業する場合は、障害福祉サービスも同時に開業することは大きなメリットがあります。

 現状、訪問系の障害福祉サービスでは、開業当初の利用者が少ない時期に、比較的容易に仕事の依頼が来る可能性が大きく、場合によっては長時間などボリュームの大きなサービス依頼が来ることもあり、経営上非常に助かる部分があります。

 というのも、訪問系の障害福祉サービスは「毎日」や「1日6時間」など一人の利用者に対してのサービスボリュームが大きいケースがあり、特に重度訪問では複数のサービス事業所が共同でサービス提供しているケースもあり、場合によっては事業者足りない状況もあるからです。ただし、長時間サービスでは多少時間単価は低くなります。また、高齢者と同様、最初は困難ケースが回ってくることも多いでしょう。

 一方で、若年の障害者も多いですから、一度サービスに入ると、固定利用者として長い間サービスが継続することもあります。

 

 

障害福祉サービスは今後も拡大が予想されます

 

 実は、我が国の障害福祉サービスはまだまだ不十分であり、社会保障給付の額でもヨーロッパなどの福祉先進国からはかなり後れを取っている状況です。日本では、長い間、障害者支援の主体は家族や行政が中心であり、民間などの外部サービスを利用した広い支援体制がなかなか整わない状況が続いていました。欧米ではノーマライゼーションの考え方が浸透しており、障害により障害者が不利益を被ることは、社会システムに問題があり、障害者は外部サービスを積極的に活用して、自立した生活をする権利があるとされています。

 日本は2014年に「障害者の権利に関する条約」を批准し、制度面でやっと国際標準に到達したといえる状況です。今後、障害福祉サービスのさらなる充実を図ることが国策となっていると考えます。

 

障害福祉サービスの増加率

 

 国民保健団体連合会のデータから、ここ4年のサービスの伸びを見てみましょう。

 訪問系サービスを含めて少しずつ利用が増えています。特に障害児の利用の伸びは非常に大きくなっています。

 こうしたサービス利用の拡大は、国の法律が変わり、今まで障害者ではなかった新たな障害者が増加したり、病院や施設から在宅生活へのシフト、また、今まで外部サービスを利用してこなかった障害者が積極的にサービスを利用し始めたことが要因だと考えます。

 特に障害児を持つ家庭では、家族が直接支援していた状況から、一気に外部サービスを使い始めたという感があり、大変大きな伸びになっています。もちろん、訪問介護事業所の提供する障害福祉サービスでも障害児へのサービスは可能です。

 また、福祉先進国ではそもそもの障害認定の方法が異なり、日本では障害者とみなされない人も多くが障害者としてサービスを受けられる環境があります。(※1)日本でも前述の北欧並みにノーマライゼーションの考え方が浸透すれば、サービスの利用はさらに増えると考えます。

 

≪参考資料≫

http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18879202.pdf

※1:国際比較からみた日本の障害者政策の位置づけ −−国際比較研究と費用統計比較からの考察−− 勝 又 幸 子(国立社会保障・人口問題研究所)

 

 

次回は具体的に訪問介護事業所が障害者福祉サービスに参入する際のノウハウについてご説明したいと思います。