訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その2

スタッフ世話不足悪循環

 

 サ責や管理者が現場に出ずっぱりの事業所の場合、訪問スタッフが現場で対応に困った時、すぐに携帯電話で相談したくてもサ責や管理者が携帯電話に出られない状況がよくあります。

 

 自分一人で対応できない場合、適切な相談と指導が受けられず、スタッフは途方に暮れてしまうかもしれません。新人スタッフであればそれが原因で職場を辞めてしまうこともあると考えます。

 

 現状では、人手不足で、サ責や管理者がサービスに出なければ、とてもご利用者の対応ができないという事業者が多いのではないかと考えます。

 深刻な介護人材不足がそのような状況を作り上げているのですが、場合によっては収益率を上げるために、責任者が現場に出なければならないという事情もあるかもしれません。

 

 しかし、これがスタッフが定着しない悪循環を作り出します。

 筆者はこれを「スタッフ世話不足悪循環」と呼んでいます。

 

【スタッフ世話不足悪循環】

人手不足(又は収益増圧力)→責任者が現場に出ずっぱり→スタッフの世話ができない→スタッフの不安増幅→スタッフが辞めてしまう→スタッフが定着しない→人手不足

 

 

 

訪問系スタッフが安心して働けるようにするためには相談指導体制の構築が重要

 

 まずは、なんとかして【スタッフ世話不足悪循環】から抜け出さなければなりません。

 そのためにはサ責や管理者の訪問回数を減らすのですが、それなりの覚悟が必要になると考えます。

 

 新規利用者のアセスメントやサービス担当者会議などで、まったく外に出ないことは不可能ですが、朝や夕方などサービス利用の多い時間帯、新人スタッフが単独で業務に入っている時や、困難ケースなどでトラブルの発生が予想される場合など、連絡が入ってくる可能性がある時間帯だけでも、できるだけ電話に出られるように工夫することが必要です。

 もしも、サービス提供責任者が複数在籍していたり、サービス提供責任者でなくても利用者情報に詳しいベテランのスタッフなどがいる場合は、シフトを工夫して、相談を受けられる誰かが必ず事務所で待機できるように体制を整備すると良いと思います。

 

 また、特に新人スタッフに対しては仕事に自信が持てるように、仕事の不安を払しょくできるような相談指導体制を作ることが重要かと考えます。

 事業所の中堅以上の職員はそのことを強く意識しながら新人スタッフに当たるように事業所内のコンセンサスとして確立したいものです。

 

 

気軽に相談できる雰囲気作り

 

 新人スタッフの世話では、管理者やサービス提供責任者だけでは目が行き届かない部分もあります。そのため、在籍するスタッフが全員、新人の相談に積極的に乗れる組織作りができると良いと思います。

 

 単独で仕事をしている訪問系サービスの場合、どうしても他人の仕事に無関心になりがちです。気軽に誰にでも相談できる雰囲気作りをするために、スタッフが溜まりやすい休憩場所や事務仕事を共同でできるような事務室を作るのも良いでしょう。

 

 

相談指導体制の整備には情報共有体制の整備から

 

 訪問介護の特定事業所加算ではスタッフが利用者情報を共有することが求められていますが、訪問系サービスでは、この情報共有体制の構築が相談指導体制を充実させるための要件となってきます。

 

 もしも、現場のスタッフからSOSの連絡があり、事務所に他のスタッフがいて、そのスタッフが実際にその利用者に直接サービスを提供したことが無くても、利用者について少しでも情報があれば、完璧でないとしてもなんとか対応が取れる可能性があります。

 

 事務所にいるスタッフが利用者ファイルの介護経過やアセスメントなどにより状況を把握し、スタッフ同士で話ができることは、現場スタッフにとって非常に心強いことでしょう。一人で現場で悩むよりもずっと安心感があります。

 

 

情報共有体制に必要な利用者ファイル作り

 

 スタッフが悩んだ時、利用者ファイルを見ればヒントが見つかるようなファイル作りが必要です。

 そのために、利用者ファイルにはあらゆる情報ファイリングしておくことが大切になるでしょう。

 サービス提供責任者は現場からの利用者情報を逐一吸い上げ、ファイリングすることが重要です。サ責の第一の仕事は詳細な利用者情報のファイリングと言っても良いほどです。

 そのため、個人ファイルの最初になんでも書き込める用紙をファイリングしておくと良いと思います。記事とともに日付と記入者を必ず書いておきます。

 

 

現状ではネットやクラウドなどでは詳細な情報蓄積は難しい

 

 ネットを使って利用者情報を現場でもスマホなどで見られるようにすることは情報共有のための方法として有効でしょう。

 しかし、紙のファイルとネット上の情報が二つある場合は、情報が分散し、現場で必要な情報が手に入らない場合がありますので注意が必要です。

 

 現状では、スタッフ間でネットで情報伝達をしたとしても、最終的には紙のファイルに一元集約し管理したほうが効率的に情報管理ができるのではないかと考えます。

 

 ネットでの一元管理するためには、利用申込書からアセスメント、診断書や保険証、薬剤情報などもすべてデジタル化してネットにアップする必要があります。作業が煩雑ですしデジタルスキルに秀でた人でないとなかなか管理ができません。

 

 利用者に関する情報はメモも含めてすべてファイリングするやり方が、今のところもっともすぐれた情報共有方法だと考えます。

 

 

効率的なスタッフ会議の開き方

情報共有及びケアカンファレンスとしてのスタッフ会議はスタッフ間の連携を密にする意味でとても有効です。開き方については前回の記事をご覧ください。

 →訪問介護「特定事業所加算」で必要なスタッフ会議の進め方

 

 

次回はパートスタッフの定着術についてもう少し詳しく説明します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その1

 

 

現状では訪問系サービスの収益アップにはパートの活用が肝

 

 訪問介護や訪問看護事業では、正社員によりサービス提供するよりも、登録のパートスタッフにできるだけ仕事をしてもらった方が事業収益上プラスになります。

 

 地域や加算により違いますが、例えば身体2(1時間以内)で約4,000円の給付がある場合、パートスタッフであれば人件費が時給換算で1,500円から1,800円といったところでしょう。

 

 しかし、社員の場合、1日、5時間程度訪問サービスができるとして、単純計算で

 一月100時間×4,000円=400,000円の収益になりますが、社会保険や賞与、必要経費を考慮すると人件費としては300,000円程度が必要になると思いますので、収益率はパートスタッフより少なくなります。

 

 これは訪問看護でも同様のことが言えます。

 つまり、訪問系の介護サービスの場合、現状ではパートスタッフが増えた分だけ、収益率が増すビジネス構造となっています。

 

 

しかし労働環境の流れはパート→正社員化?

 

 もちろん、パートスタッフが増えることはサービスの質の低下につながる場合もありますので、きちんとした研修や指導が必要です。そうした質の低下をさせずに、パートスタッフを獲得し定着させることが、今のところ訪問系事業所経営の要諦となっています。

 

 しかし、国は非常勤や契約労働者の正社員化を目指して労働政策を進めている傾向があります。一方で、主婦や高齢な労働者の中には正社員よりもパート労働者として働きたいというニーズもいまだ強く今後の労働環境の方向性は不透明です。

 

 主婦の場合、夫の扶養範囲や所得税控除、社会保険加入の関係でパート労働の方がメリットが大きかったりしますので、年収100万円程度に収入を押さえたいというニーズも強くあります。

 

 とはいえ、人口減少社会の中で、国は年収制限を撤廃して労働力を確保したい方向です。これに対し、主婦やパート労働者に頼っている業界などのからの反対は強く、綱引きが続いている状況です。

 ファミレスやスーパーコンビニなどの業界では、パートスタッフがいなくなれば根本的にビジネスモデルを変えなければなりません。この点は訪問系介護サービス業界も同様のことが言えるでしょう。

 

 パート労働者の扱いがどうなるか注視していく必要があります。

 

 

今後は柔軟な就労環境の構築が重要

 

 筆者は、いずれパート年収上限の撤廃がありえると考えています。

 しかし、もしも、パート年収上限を撤廃し、仮にすべての訪問介護員を正社員化するのであれば、訪問介護給付は今より20パーセント程度増加させなければならないと考えます。

 そうしなければ、事業者の撤退が相次ぐでしょう。介護保険制度の訪問介護サービスは継続できず、日本の在宅介護は崩壊します。

 

 日本のパート労働者を正社員化するためには、日本の労働者全体の賃金の上昇を前提としなければならないと考えます。

 

 20パーセントというのは、具体的には身体2(1時間以内)であれば5,000円程度の給付です。そうすれば、訪問介護員の給与は今のケアマネージャー程度になり、共働きの既婚女性などが働きやすい職業になると考えます。

 

 蛇足ですが、そもそも、ケアマネージャーよりも訪問介護員の方が給与が安いという考え方はそろそろ変えた方が良いのではないかと考えています。

 家事援助が別のサービスに移行し、訪問介護員は身体介護や医療的ケアなど高度なサービスに特化すれば、20パーセントの賃金上昇は吸収できるのではないでしょうか。

 

 訪問介護のサービス内容の高度化と給付上昇を同時に行えば、訪問回数が減りますので、スタッフ不足も解消するかもしれません。正社員化しても日本の訪問介護サービスがとん挫することは避けられるでしょう。

 

 とはいえ、現状のビジネスモデルとしてはパートスタッフを活用するべきですし、訪問系の事業者としてはパートさんを確保し定着させる方策に取り組まなければならないと思います。

 

 また、パートさん獲得定着の取り組みは、正社員の獲得定着の取り組みにも繋がります。今後は、週休3日制や短時間正社員などの制度が整備され、多様な働き方ができる社会になってくると考えていますので、労働者のライフスタイルに応じた柔軟な就労環境の構築がスタッフ獲得の肝となってきます。

 

 

 

訪問系スタッフは不安を感じやすい

 

 それでは現状でのスタッフの獲得定着について、何が重要なのでしょうか。

 

 通所介護や施設サービスと異なり、訪問スタッフは概ね一人で利用者を訪問し、サービス提供をしなければなりません。

 サービス提供責任者や管理者が同行訪問し指導をしますが、最初の方だけです。

 一方、ご利用者の状態は日々変化するものであり、その変化に対応した適切なサービスを提供することが求められますので、訪問介護員や訪問看護師はそれなりの知識と技術が必要となります。

 

 しかし、知識や技術がしっかりしていても一人では対応に悩むことは当然あります。施設など複数でサービス提供している現場であれば、その場で他のスタッフに相談し、対応することができますが、一人ではそうもいきません。当然、仕事に対する不安を抱えることになります。

 

 一人前の訪問スタッフとしてご利用者宅で不安を抱えずに仕事ができるようになるためには、場数が必要ですし、育成にはきめ細かい指導が必要になってきます。そうでなければ、スタッフはずっと不安を抱えたまま働くことになり、職場の定着率は低くなります。

 

 スタッフの定着にはこの不安をいかに解消し、安心して働けるようにするかが重要となります。

 

 次回は訪問系スタッフが安心して働ける職場づくりについて紹介します。

 

 

介護人材不足はいつまで続くのか その2(将来の予想)

◆外国人労働者受け入れは人手不足の救いになるか

 

厚生労働省、は経済連携協定(EPA)による東南アジア3カ国の介護福祉士に、訪問介護を解禁することを決めました。2017年4月からの実施を目指すそうです。

http://www.jiji.com/jc/article?k=2016080500036&g=eco

 

移民の受け入れは人手不足と経済成長の奥の手と言われています。

移民による人口増加を経済発展に繋げてきた国と言えばアメリカ合衆国がその代表でしょう。ヨーロッパ諸国(EU)も同じような移民政策を展開してきましたが、今、このやり方は過渡期を迎えています。ご存知のとおり、イギリスのEU離脱です。イギリス国民は移民の受け入れを拒否しEUからの離脱を決めました。

 

日本は移民についてはかなり厳しく制限してきた経緯があります。歴史的に多民族が交わって社会を作っていく構造にはなっていませんので、アメリカのような移民政策を国民が簡単に許容することは考にくいと思います。

 

私個人としては、多様な民族が交じり合うことは、地球上に住む人間という種族にとってはごく自然なことであり、風土の保全としっかりした語学教育が可能であれば拒むことではないと考えています。

 

しかし、現在、在留外国人の就労制限は厳しく、仕事のために在留を認められているのは通訳など一部の職業のみです。当然、EPA以外の介護福祉の仕事で在留許可を得ることはできません。留学生がアルバイト(時間制限あり)で介護福祉の仕事に就くことは可能ですが、語学留学できている外国人ではコミュニケーションのレベルが問題になります。

日本語の習得は外国人労働者にとっては大きな壁でしょう。ヨーロッパでも移民の語学レベルが大きな問題となっており、質の高い労働力に繋がっていないという指摘があります。

 

日本人と結婚していたり、家族がいる人は就労が可能です。現状でもこうした許可により多くの外国人が介護施設等で働いていますが、この方法でも人手不足の解消につながるほど多くの労働者を確保できるとは思えません。EPAによる介護職の受け入れも2016年までで2,000人程度です。ほとんど意味を成す数字ではないでしょう。

 

 

◆人手不足はいつまで続くだろうか 予想してみる

ここまでの考察を踏まえて、今後の動向を整理したいと思います。

 

1 今後、急激な円高などによる企業会計の悪化は考えにくい

 現在、日本とアメリカの経済格差は広がりつつあります。現状、1ドル100円程度が今後、米国の利上げなどにより長い目で見ると円安に進むと考えられています。しかし一方で、日本は人口減少によりデフレが緩やかに進んでいくという考え方もあり、デフレの場合は円高になりますので、ドル円が急激に大きく変動することは考えにくい状況です。

 ドル円が安定的であれば、日本企業は緩やかに収益拡大をしてくと予想されます。

 

2 日本の労働人口の低下により労働者需要はさらに増加

 1億総活躍と政府が言わなければならないのは、まさに日本人が減ってしまうことが原因です。労働需給はさらにひっ迫することが予想されます。

 

3 外国人労働者の受け入れ拡大(移民の受け入れ)は相当の時間がかかる

 国内で移民の議論ができるようになるまで相当の時間が必要と考えます。今はどの政党も触れたくないようです。

 しかし、労働者不足は待ってくれませんので、将来、介護サービスが受けられない介護難民が大きな社会問題となるようであれば、議論が始まるかもしれません。

 現状のEPAの枠組みを超えて、日常会話レベルの日本語能力を持つ外国人介護労働者を大量に受け入れられるようになるのは、かなり先のことでしょう。

 

4 賃金上昇による効果は限定的

 政策的な賃上げによる効果はある程度期待できます。しかし、介護福祉業界だけではなく他の業種も相対的に上がるので、全体として人手不足の解消に繋がるか疑問があります。処遇改善加算をどこまで上げることができるか。消費増税、医療や年金など他の社会保障コストの関係により、介護福祉の方にどれだけお金を回せるかによると考えます。

 このままでは介護難民が深刻になることを、介護福祉業界全体でアピールしていくことが重要でしょう。

 

5 人型ロボットが介護士の代わりをしてくれるのは難しい

 ロボットの活用では、いわゆる人型ロボットより、先進的なリフトなどの開発により、移乗や移動を利用者自身がコントロールできるシステムや、排せつを自動化できるベッドなど、介護職員に頼らない福祉用具の開発の方が、人手不足には有効だと思います。

 ベッドからお風呂まで利用者や家族がリモコンを操作して、オートーメーションで移動できたり、ベッドがそのままお風呂になってしまう構造であったりと、介護労働を軽減する福祉用具は今後さらに開発が進むでしょう。

 

6 多様な業界で人を必要としないサービス提供の仕組が開発され発展する。

 介護だけでなく、無人運転車(タクシー・宅配便など)の実現。ICタグや自動決済システムの利用拡大により、巨大な自動販売機と化すコンビニやスーパー。店員のいないファミリーレストランやファストフード。人型ロボットのショップ店員。などなど、ろいろなサービスを自動で提供できるシステムが今後、開発され普及するでしょう。

 こうした自動化は日本人が非常に得意とする分野です。回転ずしなどはその先駆けと言えます。

 こうした自動化により介護以外の業界で人手不足が解消すれば、それが介護福祉業界の人手不足解消の決定打となるかもしれません。

 

◆今後なくなってしまう仕事

人手不足解消の決定打は、多様な業界でサービスの自動化が進み、人手を使わなくてもサービスが提供できるようになること。それにより、日本全体の人材不足が解消され、介護業界にも人が流れてくることでしょう。

多くの企業で、企業収益を上げるための自動化の取り組みは、今後一層の盛り上がりを見せるでしょう。政府も強力にバックアップするはずです。特にパート労働者を活用してきた分野では進展が激しいのではないかと考えます。

 

 米国で発表された、今後、機械や人工知能が奪う職業ランキングの上位15位を見てみます。

1 小売店販売員

2 会計士

3 一般事務員

4 セールスマン

5 一般秘書

6 飲食カウンター接客係

7 商店レジ打ち係や切符販売員

8 箱詰め積み降ろしなどの作業員

9 帳簿係などの金融取引記録保全員

10 大型トラック・ローリー車の運転手

11 コールセンター案内係

12 乗用車・タクシー・バンの運転手

13 中央官庁職員など上級公務員

14 調理人(料理人の下で働く人)

15 ビル管理人

 

こうした仕事がなくなる一方、介護などの直接的な対人援助の仕事は残るといわれています。コミュニケーション技術や身体接触も含めた援助技法により、一人ひとり個別に支援するサービスはなかなか自動化できない分野です。前述の福祉用具の進歩による自動化は、コストがかかり、一部の施設やお金持ち以外利用できません。通常の在宅介護や認知症介護では今まで通り、人手が無ければ難しい状況は続くと考えます。

 

◆仕事の自動化が進めば今度は失業者が増加

自動化により人々が職を奪われる状況が、今後10年程度で明らかになるかもしれません。

有効求人場率は低下し、労働市場は買い手市場に転化するでしょう。失業率が上がり人々が職を求め始める時代が来ると、介護福祉分野の人手不足も解消することが予想されます。

しかし、あと5年程度は今の状況が続きそうです。その間に我が国の介護福祉サービスが人手不足で破綻しないことを祈ります。

 

 

 

 

介護人材不足はいつまで続くのか その1(原因の考察)

「介護人材不足はいつまで続くのか?」

結論を先に言ってしまうと、今後10年程度で人材不足は解消するのではないかと、私は睨んでいます。さらに言えば、将来は労働者が余ってしまう時代がやってくるかもしれません。

まず、現状の人手不足の原因について考察してみたいと思います。

 

◆介護福祉の経営にとって、人手不足は事業成長の大きな阻害要因

 

28年6月の全国正社員有効求人倍率は0.88倍。東京は2.05倍となり、高度経済成長末期の1974年5月(2.23倍)以来の高水準となっています。

 

介護に限らず、運輸や建築業などを中心にあらゆる方面で人手不足が顕在化しています。

友人のトラック運転手は休みが週に1度しかなく、夏休みもない状態で働いているとぼやきます。運送業では荷物があれば誰かが運ばねばならず、遅れればクレームになるのでやらざるをえないそうです。

 

人手不足は労働環境の悪化につながります。より良い処遇を求め、離職によるさらなる人手不足の悪循環が発生します。人手不足による過重労働が原因となり、介護福祉現場では虐待なども発生します。

 

そして、この事業の場合、働き手がいなければイコール事業が成長しないことです。人が集まれば新しい事業を次々に展開することも可能でしょう。最近では人が集まらないために、特別養護老人ホームの公募で採択されたのに、辞退したという話も聞こえてきます。

 

 

◆人手不足の原因は何だろう

 

現状における、日本全体の人材不足は、団塊の世代の大量退職と、バブル崩壊・リーマンショック以来の人件費削減の反動。円安による企業会計の好転。中国をはじめとしたアジア諸国の人件費高騰による、仕事の日本回帰。震災復興需要。ITなどの産業ニーズの変質に人材開発が追い付いていないなど複合的な要因が原因として挙げられるでしょう。

 

政府は労働需要が高いことはアベノミックスの成果と言っていますが、需要が高いのに賃金が改善されなければ、国民の所得は改善されないばかりか、介護・運輸・建築など、もともとの賃金水準が低い業種にしわ寄せが来るのは避けられません。

 

全体の賃金が上がれば企業は人件費を抑えますので人材不足も改善されるかもしれません。現政権は最低賃金の改善を打ち出していますが、現状ではまだまだ効果が出ていません。

 

ちなみに、最低賃金の国際比較では日本は先進国でも最低レベルのようです。

(2015.12.10産経新聞調べ)http://www.sankei.com/west/news/151210/wst1512100006-n1.html

 

オーストラリア 1,517円

フランス 1,265円

英国(21歳以上) 1,256円

ドイツ 1,118円

米国(平均) 892円

日本(平均) 798円 現在は823円

 

最低賃金は物価との関係もありますので、賃金が高いから国民が豊かとは一概には言えません(最低賃金が高い国は比較的物価も高いようです)が、デフレから脱却して賃金と物価を上げたい日本政府としては最低賃金1,000円を目指しているという声も聞こえます。

 

最低賃金の上昇は、かつて経済団体からの反発が強く、なかなか上げられない状況が続いていました。日本はコンビニやファストフード系の企業などパート労働者の活用により成長してきた企業が多く、最低賃金の引き上げは人件費コストにダイレクトに響きます。そのため、反対してきた経緯があります。

 

しかし、現在、都市部を中心に、こうしたパート労働者自体が集まらず、企業自らが時給を上げざるを得ない状況になっています。都市部では、最低賃金ではパートさんをなかなか雇えない状況でしょう。

 

東京郊外にオープンした巨大ショッピングモールで熾烈なパートさん獲得合戦が繰り広げられたというニュースは、もう3年も前のことです。

http://www.nikkei.com/article/DGXNZO63355220Z21C13A1L71000/

今も、この状況はあまり変わっていないようです。

 

現在、首都圏の介護福祉業界のパートさんの時給は1,000円以上になって来ています。しかし、他の業種のパートさんも1,000円を超えて来ていますので、仕事の内容から介護福祉業界は分が悪いと言えます。特に若い人にはおしゃれなショップ店員などの方が魅力的に映るでしょう。

 

◆国は「2020年代初頭に向けた総合的な介護人材確保対策」を発表

 

厚生労働省は3月に、介護人材不足対策を打ち出しました。介護職の社会的な地位を引き上げることや、介護の仕事に戻ってくることを促進するような対策を打ち出しています。

 

介護人材の確保につい」 厚生労働省資料

 

処遇改善や助成金など税金を投入することで人材確保を目指すことは、ある程度の成果を上げるかもしれません。しかし、前述のとおり人材不足は介護業界だけではありません。政府も介護福祉分野だけ優遇することはできないでしょう。建築や運輸の分野で国土交通省や他の省庁も人材確保の対策を打ってきます。

 

高齢者や主婦など未就労層を開拓して労働者を増やすことで、人材は増えるかもしれませんが、限界があると私は考えます。人口が減り続けているわが国では、限られた人材をみんなで奪い合う状況は、今後も変わらないのではないかと考えます。

 

次回は、外国人の受け入れやロボットの導入などを見据えて、介護人材不足がどのように解消するか考えます。