訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その7

ワークライフバランスとは

 

 日本では主に政府が主導して男女共同参画の観点から進められている運動です。

http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html

 その背景には少子化問題(国力低下の問題)があり、働きながら子育てしやすい社会の構築が目指されている感があります。

 しかし、何も子育てだけがワークライフバランスの「ライフ」に当たるわけではありません。

 

 人によっては当然ワーク=ライフの仕事人間の人もいるわけで、人それぞれのワークライフバランスがあるでしょう。

 

 人材不足の現況、企業としては「多様な働き方を受け入れていく」ことで、人材を確保することが望まれています。

 この「多様な働き方」というのが人それぞれであり、また、人生のそれぞれの場面でも変わってきます。

 

 女性や高齢者、障害者も含め、さらに人生の様々な場面でその人にとって働きやすい働き方というものがあります。それらをできるだけ受け入れて労働力を確保するということが必要になるでしょう。

 

 この記事で述べてきた、スタッフの定着のための様々な方策も、まさにワークライフバランスの充実のための方策と言って良いでしょう。

 

 

介護の職場はワークライフバランスに適した職場

 

 「多様な働き方を受け入れていく」という意味では、介護職場はそれを実現しやすい職場です。その辺のことは既に述べてきました。

 男性の場合、給与が安いという意味で一生の仕事ではないという人もいるかもしれませんが、起業すればそれなりの収入を得ることは可能です。

失敗しない介護・福祉起業

 

 ただ、介護企業側がそのことをしっかり認識し、短時間正社員制など、多様な働き方の設定をしっかりと構築し、さらにそれを周りににアピールしなければあまり意味はありません。

 介護事業が多様な働き方ができる職場であることを、経営者がまず認識しなければ、ワークライフバランスの推進はできないでしょう。

 

 

ワークライフバランスを意識した就労制度とは

 

 では介護事業所としてどのような多様な働き方を設定できるでしょう。以下に例を挙げます。

 

1 短時間正社員

 通常週40時間のところ、週30時間などと短縮しても正社員とする制度です。

 朝晩の保育園の送り迎えなどがあるママさんなどにとってはありがたい制度です。子供に手がかからなくなった時には40時間勤務に切り替えます。

 厚生労働省では「短時間正社員制度導入ナビ」を公開しています。事例紹介では介護事業所の事例も出ていますので参考にしてください。

https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/

 

2 土日祝日休み職員の設定

 訪問介護事業所などは365日営業が多いため、土日祝日が休めないイメージがあります。この点に配慮して、土日祝日が休める正社員制度を設定します。

 ワークライフバランスを意識した場合、このことは大変重要で、子供のいる家庭では土日祝日が休めない場合、家族に対する負担は大きくなります。

 介護職場が人気が無いのはこのことが原因ではないかと筆者は考えています。

 

3 有給休暇の取得奨励制度(パートスタッフも含む)

 有給休暇を計画的に取得させる制度です。

 例えば、年間10日以上の有給休暇取得計画を毎年社員に提出させます。これはパートスタッフにも適用されることが重要です。

 管理者はそれを前提に、年間のシフトなどを設定します。休暇がかぶってしまうような場合はずらしてもらう必要も出るでしょうが、その辺はスタッフ同士で調整しあうような仕組みにすると良いでしょう。

 パートスタッフの場合、勤務年数によって取得できる有休休暇日数が法律で決まっています。支給される給与は、通常その人が1日に貰う給与や平均給与を適用するようです。 

 訪問系介護事業所では高齢のパートスタッフも多く働いています。こうした方々にとってはこの制度はとても人気があります。

 日本人は休むのが苦手な民族のようです。しかし、人生100年時代、人生を楽しみながら長く働くためには長期休暇がもらえることはとても重要なことだと思います。

 

4 産休・育休・介護休業制度の周知と復帰の奨励

 中小企業の場合、女性に子供ができると仕事を辞めなくてはならないという風潮もあるようです。また、子供を産んだ後も育てながら仕事に復帰することに困難さを感じる場合もあります。

 先に挙げた短時間正社員制度などを導入し、妊娠時や復帰後の勤務軽減など、子育てしながら働きやすい職場を社員にアピールすることが大事です。

 若い人たちは産休・育休制度自体があることを知らなかったりします。求人の段階から子育て支援の整備された会社であることをアピールし、管理者などが説明していくと良いでしょう。

 周りに産休・育休・介護休業を取得して復帰したスタッフがいるとより効果的だと思います。

 

5 長期休業の取得制度

 例えば、勤続5年以上の場合、最長1年間、無給にて休業できるというような制度です。学校に通うような場合は、2年から4年に増やす規定も可能でしょう。

 しかし、現在の日本の労働制度の場合、休業中の社会保険の問題などがあり、若干導入はしにくいようです。今後の制度改善が望まれます。

 

 いくつか例を上げさせていただきましたが、上記の制度類を導入するには、職場に人的な余裕があることが大切です。そのためにもスタッフの定着の好循環を生み出していかなければならないでしょう。

 

 なお、このような制度を導入するためには就労規則などを改正しなければなりません。その費用を助成してくれる制度があります。

 また、介護労働者の負担軽減の助成金や仕事と家庭の両立のための助成金もあります。詳しくは社労士に相談いただければと思います。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/teityaku_kobetsu.html

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

 

 

次回は、求人のための工夫について紹介します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その6

スタッフの運動器系トラブル対策

 

 前回の続きです。

 

6 リフトやスライドボードなどの福祉用具の活用を図る

 

 昨今、老人ホームでは腰痛による退職防止策として、リフトの導入が進んでいます。

 訪問介護ではなかなか、そういうわけにはいきませんが、福祉用具相談員とよく話し合い、それぞれの利用者に適した福祉用具を導入してもらうように検討しましょう。

 体重の重い利用者など福祉用具の活用が有効なご利用者の場合、ケアマネージャーやご本人によく説明をし、適切な機器の利用を進めるべきでしょう。

 そのような我儘は言いにくく、我慢した結果、スタッフが腰を痛めてしまい、サービス提供が継続できなくなった例などが見られます。

 スタッフの腰痛予防のための福祉用具の導入は我儘でなく、サービス提供を継続するための適切な方策であると考えるべきです。

 

7 腰痛対策商品を活用する

 

 最近は腰痛予防の様々な商品が開発されています。

https://innophys.jp/musclesuits(マッスルスーツ)

http://www.morita119.com/rakunie/(腰部サポートウェア)

 コストの問題もありますので、導入するかは検討が必要かもしれませんが、いざというときに事業所に一つあると心強いかもしれません。

 例えば、おんぶして階段を上がらなければならないようなサービスの時は重宝するかもしれません。

 なお、腰痛ベルトなどを日常的に着用することは、筋肉量低下の原因になるため、推奨されません。現場で負荷の高い作業する時だけ着用するのがポイントです。

 

8 人により業務の内容を調整する

 

 老人ホームではスタッフ全員がある程度一律の業務を実施する必要がありますが、訪問系のサービスの場合スタッフの能力により業務を調整することが可能です。

 非力なスタッフには、負荷の軽い業務を回し、負荷の重い業務は体力のあるスタッフに回すことができます。

 スタッフの定着のためには、この辺の調整をシフトで行う気遣いが重要になると考えます。また、先にも述べた通り、スタッフが「自分にはこの業務はきつい」と気軽に言える雰囲気が職場にあることが重要でしょう。

 業務を適材適所で行っていくためには、女性や男性、若者や高齢者など、バラエティーに富んだスタッフが所属していることが理想ですが、そのためにも、スタッフが職場に定着することが大切になります。

 

 

メンタルヘルス ─ 「世話不足の悪循環」の違い

 

 職員のメンタルヘルスは介護事業に限らず、企業が取り組まなければならないこととして、近年クローズアップされています。

 しかし、前述したスタッフに対する気遣いが不足していることによる「世話不足の悪循環」をメンタルヘルス対策で解決することはできません。

 新人スタッフが仕事のことで悩んでいるのは、厳密に言えばここでいうメンタルヘルスの対象では無いと考えます。

 それはスタッフの指導育成体制の問題であり、社内に「職場の悩み相談担当」を設置しても解決しないでしょう。

 職場のメンタルヘルスを考える場合、まず、新人スタッフがすぐに辞めない指導育成体制ができている前提で考える必要があります。

 

 

精神疾患の職員に対する対応

 

 病気と言えないまでも精神的な負担は退職に直結します。

 気分が落ち込むような仕事や職場では継続しようがありませんが、それが仕事や職場によるものかは人によって様々です。

 スタッフにとって居心地の良い職場であれば、精神的な負担も最低限なものになるでしょう。しかし、精神疾患はそれだけでは防ぐことはできません。家庭や恋愛など職場とは違う場所に原因がある場合も多いのです。

 

 うつ病や他の精神疾患の状態にあるのに、本人がそれに気づかず(もしくは認めず)医者にかからないために、欠勤や遅刻などを繰り返す場合があります。

 このような場合は、適切なメンタルケアが必要になりますが、中小企業の内部だけでは適切な対処はできないでしょう。専門家に任せる必要があります。

 費用を負担してあげれば、業務命令として(仕事として)適切な医師の診断を仰ぐことができますので、医師に任せるのがもっともよい方法方です。

 本人にどのように説明するかなどは社労士さんと相談すると良いでしょう。

 

 東京都では職場のメンタルヘルスを支援するサイトを開設していますのでご活用ください。

 http://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.jp/mental/

 

 

年に1回のメンタルヘルスチェックからの業務環境改善

 

 定期健康診断と同様に、年1回スタッフ全員のメンタルヘルスチェックを実施することをお勧めします。チェック表は以下をご活用ください。

http://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.jp/mental/self_care/check.html

 

 ただ単にチェックするだけでなく、結果を業務環境の改善につなげることが重要です。

 それがスタッフ定着に繋がります。

 また、本人の自覚を促すきっかけにもなります。本当は疲れているのに頑張ってしまっている人や、本人にも気づかない精神の状態をあぶりだしてくれます。

 

 そのため、チェックを人事考課や能力評価と一緒に行うと良いでしょう。

 チェック結果について上司と話し合うような仕組みにすることで、より業務環境の改善に繋げることができると考えます。

 

 次回はワークライフバランスについてご説明します。

 

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その5

 

スタッフの健康管理は事業者の責務

 

 労働安全衛生法では、事業者は常時雇用する職員に会社負担で定期健康診断を受診させる義務があります。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

 

 常時雇用する職員とは概ね週30時間以上働く、契約期間の定めのない労働者で、パートスタッフも含みます。

 

 訪問系のパートスタッフの場合、週30時間以上の労働実態が無いため(1日の訪問時間が6時間以上ないと週30時間を超えることができない)、事業者によっては健康診断を実施していない場合もあるようです。

 しかし、訪問介護の場合は週30時間以下のパートスタッフも含めて会社負担で健康診断を受診しないと、特定事業所加算を算定できないことはご存知でしょう。

 

 訪問看護でもサービス提供体制強化加算を算定するためには同様に事業者負担で定期健康診断を実施する必要があります。

 

 いずれにしても、介護事業においてはスタッフの健康管理は事業者の負担で、事業者の責任で進めていく必要があると考えます。

 

 ただ、パートスタッフは扶養者の保険で定期健康診断を受診したり、40歳以上の人の場合区市町村の特定検診を受診している場合があります。

 

 この場合は事業者の実施する健康診断を受診せずに、それぞれのスタッフが受診する健康診断の自己負担部分の費用を事業者が負担してあげればOKです。

 

 なお、労働安全衛生法では、健康診断の結果(健康診断票のコピー)を、保存しておかなくてはなりません。

 

 

スタッフの定着には腰痛など運動器系トラブル予防が大切

 

 定期健康診断は主に内蔵系の生活習慣病などの検査が中心になります。

 

 しかし、介護スタッフには腰痛や関節炎、肉離れなどの運動器系トラブルに見舞われることが多く、これは辞職の原因に直結します。

 

 腰痛などの運動器系トラブルはその人の身体的な特徴によるものが多く、また、年齢による違いも大きいでしょう。

 

 中年女性や高齢者にパートスタッフとして大いに働いてもらわなければならない介護事業では、スタッフの運動器系トラブルをできるだけ減らすことが、スタッフ定着のための重要な方策になります。

 

 しかし、腰痛などの原因は複雑であり、様々な原因があるため人それぞれ対策が異なる場合があります。

 厚生労働省では社会福祉施設の介護従事者の腰痛予防対策を冊子にしています。内容はかなり専門的で複雑ですが、腰痛予防のストレッチなどは参考になるでしょう。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000092614.pdf

 

 ただ、これはあくまで老人ホームなどの一定の環境での対策です。訪問系の現場ではそのまま導入することは難しいでしょう。

 そこで、スタッフの腰痛などの運動器系トラブルに対する簡単な対策を以下にまとめてみました。これだけで、全てのスタッフの腰痛や運動器系トラブル予防ができるわけではありませんが、少しは辞職の防止につながるとは思います。

 

【スタッフの運動器系トラブル対策】

 

1 負荷の高いサービス提供前にストレッチなどの準備体操を義務付ける

2 ボディメカニクス研修などを定期的に実施する

3 スタッフの運動習慣を支援する仕組みを整える

4 体組成計などにより個人の筋肉量を計測する

5 研修等で個人の栄養管理の啓発を行う(特にタンパク質)

6 リフトやスライドボードなどの福祉用具の活用を図る

7 腰痛対策商品を活用する

8 人により業務の内容を調整する

 

1 始業前に腰痛体操などの準備体操を実施する

 

 訪問先で、移乗などの筋肉に負担がかかるサービスの前には、必ずストレッチなどの準備体操を実施することを、業務の手順の中に加え義務付けます。

 筋肉系のトラブルの場合、筋肉が温まっていない状態での急な負荷が原因になることが多く、負荷の高い介護をする前には、必ず実施するようスタッフに指導します。

 準備体操は、できれば訪問先の家の中に入る前に実施すると良いでしょう。ご利用者の前で行うと、ご利用者がつらい気持ちになってしまうかもしれません。

 

2 ボディメカニクス研修などを定期的に実施する

 

 年に1回は集合研修で行い、同行訪問などの時も現場でしっかりボディメカニクスの原則を確認すると良いでしょう。

 

3 スタッフの運動習慣を支援する仕組みを整える

 

 スタッフの腰痛予防や運動器系トラブルに対する研修の中で、日常的な運動の奨励をする一方、スタッフが気軽に参加できるトレッキング会や街歩き会などを社内で開催したり、スタッフが地域スポーツに参加するための補助金を出すなど、スタッフの運動習慣獲得に対する支援を進めることも良いことでしょう。

 介護予防の観点からも40歳ぐらいからの運動習慣は重要視されています。中年以上のスタッフには特に意識してもらうことが重要でしょう。

 

4 体組成計などにより個人の筋肉量を計測する

 

 ご存知のように高齢になれば筋肉量は減っていきます。筋肉量の減少が運動器系のトラブルに直結することは明らかですから、スタッフが筋肉量を計測し、自分の筋肉量が平均より少ないのか多いのかを知ることは、運動器系トラブルを予防する第1歩になります。

 

5 研修等で個人の栄養管理の啓発を行う(特にタンパク質)

 

 筋トレなどの運動をしなくても、必要なタンパク質量を適切に摂取すれば、筋肉は増えます(その代わり体脂肪が減ります)。ですから、日々の食事でタンパク質をどのくらい摂取すべきかをスタッフ研修などで意識付けさせます。

 なお、運動で身体を動かす習慣がある方は、1日に

自分の体重×1.2~1.3g (例:体重70kg×1.3=1日に必要な目安91g)

 摂取しなければなりません。

 ちなみに、91g摂取するには、赤身の牛ステーキ500g、牛乳なら3リットル程度必要です。

 

 昨今の研究でどうやら、若い人は炭水化物を摂取しても筋肉に変える能力がああるが、年を取ると、タンパク質を直接摂取しないと体脂肪ばかり増えて筋肉量が減っていく傾向があるようです。

(サルコぺニアの原因 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/sarcopenia/about.html

 中年以上のスタッフには特にこの点を意識付けする必要があるでしょう。

 

次回はこの続きとメンタルヘルスについて説明します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その4

パートスタッフにとって居心地の良い職場づくり

 

前回の続きです。

 

パートスタッフは報酬の高さよりも居心地の良さを優先します。

 

【居心地の良い職場の指標】

4 自身の生活(子育てや家族)やライフスタイルとうまくマッチングしている

 

 パートスタッフは基本的に地元の人が殆どであり、地域の働きやすい職場で、長く定着して働くことを望んでいます。

 共働きの主婦など、子育てや家庭のことなど自分のライフスタイルにマッチした働き方が地域でできることが重要なのです。

 そのことを前提に、事業所運営をしなければなりません。

 

 なお、このことは正社員についてもある程度言えることです。また、パートから正社員に登用される道(主婦の場合は子育てが終わったらケアマネージャーとして働きたいなどのニーズがあります)があるとさらに良いと思います。

 

 介護事業所は、地域の職場として安定した就労環境を提供する義務があると考えてください。

 大企業などは都心に事務所を持ち、郊外から通勤する労働者により事業運営をしていますが、それはビジネス機会や給与などの面でそれだけのメリットがあるからです。

 また、若い労働者にとっては都会の華やかなオフィスで仕事をすることに憧れや、喜びを持っているかもしれません。

 しかし、介護事業はそもそもが地域密着の事業であり、都会に事業所を集中できるような性質のものではありません。あくまで、地域の人たちの手によって地域の人たちにサービスを提供する形態が事業の基本になります。

 

 ライフスタイルにマッチした職場(=居心地の良い職場)としての条件は以下のようなことがあげられます。

 

① 小さい子供を育てる主婦の場合、急な子供の病気に対応する必要があり、そのような場合、仕事を急に休むことができる。

② 保育園の送り迎えなどの時間が取れる(短時間勤務が可能)

③ 労働日や時間がある程度自由に選べる

④ 土日祝日は確実に休める(子育てをしている人にとって休日は子供の相手をしなければなりません)

⑤ 産休育休や病気休暇等の後でも復帰しやすい(そういうことが気軽に相談できる)

⑥ 旅行などに行きたい場合、長期休暇を取りやすい(リタイアした高齢者などには働きやすい)

 

 

仕事が人に合わせる職場づくり

 

 基本的には、労働者が家庭や趣味、そうした人生の中で優先したい事を優先しながら仕事ができる環境が望ましいと言えます。

 

 人生100年時代が来ると言われ始めました。そうすると人は80歳ぐらいまで働かなければならないと言われ始めています。

 これからは、今までのように、65歳までは仕事の人生、65歳からは余生というような分け方はできなくなるでしょう。

 おそらく、人が仕事に合わせるのでなく、仕事が人に合わせる必要が出てくると考えます。

 

 地域の職場としての介護事業所はそのように、仕事が人にあわせるような働き方ができる職場として、機能させることができると考えます。

 主婦や高齢の労働者にとってはそのような職場が望まれていると考えます。

 

 さて、仕事が人に合わせられるような職場づくりをするには正社員が活躍しなければなりません。パートスタッフがフレキシブルに働くためにはその穴を正社員で埋めるしか無いのです。

 

 つまり子供の急な病気で休まなくてはならないパートママの穴を、正社員でカバーできる体制作りが必要になります。

 そのため、先の「世話不足の悪循環」でも述べた通り、サービス提供責任者や管理者は現場にあまり出ず、そうした急なトラブルのカバーに回る必要があり、それが普通であるような職場作りが求められます。

 正社員がパートのカバーを柔軟にでき、お互いに助け合うような雰囲気が職場にできると、大変居心地の良い職場になると考えます。

 

 

5 肉体的・精神的な負担が少ない

 

 つまり、ストレスの少ない職場ですが、そのためには、個々の職員の職能や技術にマッチした仕事ができることが重要です。

 また、日頃から職員の健康管理について会社が支援する体制も重要になってきます。

 

 介護は肉体的にきつい部分がある仕事です。腰痛などにより離職を余儀なくされる場合もあり、体力のない人にとっては継続が難しい場合もあります。

 

 身体介護(移乗・入浴・排せつ介助など)は女性や高齢のスタッフにとっては肉体的な負担となります。パートスタッフにとって働きやすい職場にするためには、そうした肉体的な負担について、「できる・できない」を気軽に訴えることができる職場が居心地の良い職場でしょう。

 

 「○○さんの入浴介助は私には少し負担が大きい」と気軽に言えることが大切なのです。もし、頼まれた仕事が肉体的にきついのに、それを訴えられない雰囲気がある場合、そのスタッフはやがて辞めてしまうでしょう。

 まじめな人であればなんとか克服して、仕事を全うしようとするかもしれませんが、実際に腰を痛めるなどして仕事ができなくなれば結果は一緒です。

 

 精神的な負担は「世話不足の悪循環」でも述べた通りです。仕事の悩みはすぐに解消されるよう、気軽に相談できる体制が必要になります。

 

 健康管理については体力づくりや怪我の予防も含めて、本人任せにせず会社が支援することが重要になりますが、健康診断以外にどのような支援があるでしょうか?

 

 次回はスタッフの健康管理について解説します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その3

前回の続きです。

 

パートスタッフは報酬よりも居心地の良さを優先する

 

 パートスタッフにとっての居心地の良さとは以下のような指標に集約されると考えます。

1 仕事への不安が無い、もしくはすぐに解消される

2 仕事に自信が持てる、適切に評価されていると感じる

3 良好な人間関係

4 自身の生活(子育てや家族)やライフスタイルとうまくマッチングしている

5 肉体的・精神的な負担が少ない

 

※この指標はあくまでパートスタッフの定着を意識したものです。正社員の場合はまた別の指標になるかと考えます。

 

 各指標について詳しく説明します。

 

1 仕事への不安が無い、もしくはすぐに解消される

 すでに述べたように、仕事に不安があると、スタッフは定着しません。特にその仕事が初めての新人の時期は不安でいっぱいです。パートスタッフの場合、自分がその職業に適しているかどうか不安に感じると、すぐに別の職業に移ってしまいますので、新人の世話はスタッフ定着への第一の要諦となります。

 

 不安解消に仕組みとしては以下のように整理できると考えます。

(1)何でもすぐに相談できる体制(詳しくは前回の記事参照)

(2)月1回のスタッフ会議、研修会の開催で疑問や不安の解消

※訪問介護の場合これにより特定事業所加算も算定できるようになります

(3)充実した利用者情報のファイリング(当然スタッフで共有)

 

2 仕事に自信が持てる、適切に評価されていると感じる

 仕事に自信が持てると継続してその職業に就いていくモチベーションとなります。これにキャリアアップの仕組みが組み合わされれば、一生この業界で仕事をしていく人材となるでしょう。

 幸い介護業界はキャリアアップの仕組みを充実させようと取り組んでいる最中です。介護給付的にキャリアが反映できるようになってくれば(例えば医療的ケアには別給付が出るなど)、パートスタッフのモチベーションも高まると考えます。

この指標を実現するためには、上述の不安解消の仕組みとともに、以下のような取り組みが必要になります。

(1)職業能力評価の導入

  厚生労働省では介護事業別の職業能力評価シートを作成しています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093927.html

 簡単に説明しますと、年1回スタッフが自分の技術や能力について自己評価し、それに対して管理者などが評価する形式です。

 パートスタッフ用には少し細かすぎるので、評価項目を簡略化しても良いかもしれません。

 仕事の評価は、スタッフと管理者が個人面談により行うので、仕事に対する不安や疑問などを話し合う場にもなります。その際に、管理者はスタッフに自信を持たせ、目標に向かって仕事に取り組むように動機付けを行います。

 訪問看護についてはまだ国は評価シートを示していませんが、東京都が「訪問看護OJTマニュアル」の中で評価シートを示していますのでご利用ください。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kourei/hoken/houkan/ojtmanyual.html

 

 評価制度が導入できない場合でも、年1回、管理者とスタッフが個人面談をして、仕事の振り返りなどを行うことはとても有効です。

 

(2)仕事に対する興味を引き出し養成する仕組み

 新しい知識の獲得やキャリアアップの取り組みを支援する仕組みを作っていくと、自発的な自己研鑽につながります。

 具体的には、「資格取得費用の支給」「外部研修の受講」「参考図書やソフト、DVDの購入」などに対する金銭的な支援です。

 

 なお、評価制度の導入や資格取得・研修費用などについては補助金を利用できる場合があります。以下は厚生労働省の補助金です。社労士さんに相談すると申し込めます。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html

 介護実務者研修や介護福祉士の受験費用については、各自治体で補助金を出している場合がありますので問い合わせてみてください。

 

3 良好な人間関係

 職場での人間関係は退職理由の上位に来る指標です。

 筆者が東京都で人事の仕事をしている時、新入職員などの研修で以下のようなガイダンスをしていました。

 

 【入職時の心得】(3か月は無理をしない原則)

(1)入職後3か月は無理して仕事をしようとはせず、上司や先輩に言われたことを淡々とこなすこと。

 職場では入職したばかりの新人スタッフの仕事にほとんど何も期待していません。使い物になるようになるまでは1年程度必要だと考えています。従って周りの期待に応えようとして無理をして仕事をする必要は無いのです。

 無理をすると失敗します。失敗すると自信を失います。自信を失うと仕事が楽しくなくなり、職場に行くのが苦痛になるという悪循環に陥ります。

 

(2)入職後3か月は無理に人間関係を密にしようとしない

 人間関係は自然に形成されるものです。職場になじもうとして無理に周りと仲良くする必要はありません。少々、さみしいかもしれませんが、周りにいる人たちがどのような人なのか分からない時点では、無理に仲良くしようとすると逆に関係をこじらせたり、傷ついたりする場合があります。

 入職後3か月は、周りの人間関係をじっくり観察するようにしてください。どの人がどのような性格で、誰と誰が仲が悪いとか、誰が嫌な奴だとか、そうしたことが見えてくると、自然と人間関係は形成されていきます。

 この先輩はなんで自分をいじめるのだろうという人がいたとします。そういう場合は悩んだりせず、右から左に流すようにします。3カ月もするとその人は他の人からも嫌われていることが分かったりします。

 

 新入社員の多くが3か月以内に辞めてしまうというデータがあります。

 新人はすでに形成されている複雑な人間関係の中に一人で放り込まれるわけですから、その環境に慣れるにはそれなりの時間がかかるのです。

 そのことをしっかり認識して、3か月は人間関係のことは考えず、ただ傍観するようにするのが、うまく環境になれるコツです。

 

(3)入職後3か月は分からないことは何でも聞く勇気を持つ

 馬鹿にされたくないとか、恥ずかしいとかいう気持ちは、新人は持ってはいけません。

 何でも聞けるのは新人のうちだけです。明るく元気に何でも聞く勇気をもって過ごしてください。

 

 以上、これは新入社員向けのガイダンスですが、パートスタッフにも当てはまることです。採用時に上記のようなガイダンスをしてあげることで、入職の際のストレスはだいぶ軽減されるでしょう。通常3か月勤務できれば、その後も継続的に勤務できると考えます。

 

 【トラブルメーカーへの対応】

 正社員などで、パートスタッフをいじめてしまい、辞職に追いやるようなタイプの人がいます。これには対策が必要です。

 訪問系のサービスの場合パートスタッフが定着することが収益につながることを、しっかり理解させましょう。

 さらに、正社員の仕事はパートスタッフに安心して仕事をしてもらえるように世話をすることだということを理解させなければなりません。

 訪問系の事業ではパートスタッフの世話ができない正社員は評価が下がることをきちんと説明することが大切です。

 

 

 次回はこの続きです。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その2

スタッフ世話不足悪循環

 

 サ責や管理者が現場に出ずっぱりの事業所の場合、訪問スタッフが現場で対応に困った時、すぐに携帯電話で相談したくてもサ責や管理者が携帯電話に出られない状況がよくあります。

 

 自分一人で対応できない場合、適切な相談と指導が受けられず、スタッフは途方に暮れてしまうかもしれません。新人スタッフであればそれが原因で職場を辞めてしまうこともあると考えます。

 

 現状では、人手不足で、サ責や管理者がサービスに出なければ、とてもご利用者の対応ができないという事業者が多いのではないかと考えます。

 深刻な介護人材不足がそのような状況を作り上げているのですが、場合によっては収益率を上げるために、責任者が現場に出なければならないという事情もあるかもしれません。

 

 しかし、これがスタッフが定着しない悪循環を作り出します。

 筆者はこれを「スタッフ世話不足悪循環」と呼んでいます。

 

【スタッフ世話不足悪循環】

人手不足(又は収益増圧力)→責任者が現場に出ずっぱり→スタッフの世話ができない→スタッフの不安増幅→スタッフが辞めてしまう→スタッフが定着しない→人手不足

 

 

 

訪問系スタッフが安心して働けるようにするためには相談指導体制の構築が重要

 

 まずは、なんとかして【スタッフ世話不足悪循環】から抜け出さなければなりません。

 そのためにはサ責や管理者の訪問回数を減らすのですが、それなりの覚悟が必要になると考えます。

 

 新規利用者のアセスメントやサービス担当者会議などで、まったく外に出ないことは不可能ですが、朝や夕方などサービス利用の多い時間帯、新人スタッフが単独で業務に入っている時や、困難ケースなどでトラブルの発生が予想される場合など、連絡が入ってくる可能性がある時間帯だけでも、できるだけ電話に出られるように工夫することが必要です。

 もしも、サービス提供責任者が複数在籍していたり、サービス提供責任者でなくても利用者情報に詳しいベテランのスタッフなどがいる場合は、シフトを工夫して、相談を受けられる誰かが必ず事務所で待機できるように体制を整備すると良いと思います。

 

 また、特に新人スタッフに対しては仕事に自信が持てるように、仕事の不安を払しょくできるような相談指導体制を作ることが重要かと考えます。

 事業所の中堅以上の職員はそのことを強く意識しながら新人スタッフに当たるように事業所内のコンセンサスとして確立したいものです。

 

 

気軽に相談できる雰囲気作り

 

 新人スタッフの世話では、管理者やサービス提供責任者だけでは目が行き届かない部分もあります。そのため、在籍するスタッフが全員、新人の相談に積極的に乗れる組織作りができると良いと思います。

 

 単独で仕事をしている訪問系サービスの場合、どうしても他人の仕事に無関心になりがちです。気軽に誰にでも相談できる雰囲気作りをするために、スタッフが溜まりやすい休憩場所や事務仕事を共同でできるような事務室を作るのも良いでしょう。

 

 

相談指導体制の整備には情報共有体制の整備から

 

 訪問介護の特定事業所加算ではスタッフが利用者情報を共有することが求められていますが、訪問系サービスでは、この情報共有体制の構築が相談指導体制を充実させるための要件となってきます。

 

 もしも、現場のスタッフからSOSの連絡があり、事務所に他のスタッフがいて、そのスタッフが実際にその利用者に直接サービスを提供したことが無くても、利用者について少しでも情報があれば、完璧でないとしてもなんとか対応が取れる可能性があります。

 

 事務所にいるスタッフが利用者ファイルの介護経過やアセスメントなどにより状況を把握し、スタッフ同士で話ができることは、現場スタッフにとって非常に心強いことでしょう。一人で現場で悩むよりもずっと安心感があります。

 

 

情報共有体制に必要な利用者ファイル作り

 

 スタッフが悩んだ時、利用者ファイルを見ればヒントが見つかるようなファイル作りが必要です。

 そのために、利用者ファイルにはあらゆる情報ファイリングしておくことが大切になるでしょう。

 サービス提供責任者は現場からの利用者情報を逐一吸い上げ、ファイリングすることが重要です。サ責の第一の仕事は詳細な利用者情報のファイリングと言っても良いほどです。

 そのため、個人ファイルの最初になんでも書き込める用紙をファイリングしておくと良いと思います。記事とともに日付と記入者を必ず書いておきます。

 

 

現状ではネットやクラウドなどでは詳細な情報蓄積は難しい

 

 ネットを使って利用者情報を現場でもスマホなどで見られるようにすることは情報共有のための方法として有効でしょう。

 しかし、紙のファイルとネット上の情報が二つある場合は、情報が分散し、現場で必要な情報が手に入らない場合がありますので注意が必要です。

 

 現状では、スタッフ間でネットで情報伝達をしたとしても、最終的には紙のファイルに一元集約し管理したほうが効率的に情報管理ができるのではないかと考えます。

 

 ネットでの一元管理するためには、利用申込書からアセスメント、診断書や保険証、薬剤情報などもすべてデジタル化してネットにアップする必要があります。作業が煩雑ですしデジタルスキルに秀でた人でないとなかなか管理ができません。

 

 利用者に関する情報はメモも含めてすべてファイリングするやり方が、今のところもっともすぐれた情報共有方法だと考えます。

 

 

効率的なスタッフ会議の開き方

情報共有及びケアカンファレンスとしてのスタッフ会議はスタッフ間の連携を密にする意味でとても有効です。開き方については前回の記事をご覧ください。

 →訪問介護「特定事業所加算」で必要なスタッフ会議の進め方

 

 

次回はパートスタッフの定着術についてもう少し詳しく説明します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その1

 

 

現状では訪問系サービスの収益アップにはパートの活用が肝

 

 訪問介護や訪問看護事業では、正社員によりサービス提供するよりも、登録のパートスタッフにできるだけ仕事をしてもらった方が事業収益上プラスになります。

 

 地域や加算により違いますが、例えば身体2(1時間以内)で約4,000円の給付がある場合、パートスタッフであれば人件費が時給換算で1,500円から1,800円といったところでしょう。

 

 しかし、社員の場合、1日、5時間程度訪問サービスができるとして、単純計算で

 一月100時間×4,000円=400,000円の収益になりますが、社会保険や賞与、必要経費を考慮すると人件費としては300,000円程度が必要になると思いますので、収益率はパートスタッフより少なくなります。

 

 これは訪問看護でも同様のことが言えます。

 つまり、訪問系の介護サービスの場合、現状ではパートスタッフが増えた分だけ、収益率が増すビジネス構造となっています。

 

 

しかし労働環境の流れはパート→正社員化?

 

 もちろん、パートスタッフが増えることはサービスの質の低下につながる場合もありますので、きちんとした研修や指導が必要です。そうした質の低下をさせずに、パートスタッフを獲得し定着させることが、今のところ訪問系事業所経営の要諦となっています。

 

 しかし、国は非常勤や契約労働者の正社員化を目指して労働政策を進めている傾向があります。一方で、主婦や高齢な労働者の中には正社員よりもパート労働者として働きたいというニーズもいまだ強く今後の労働環境の方向性は不透明です。

 

 主婦の場合、夫の扶養範囲や所得税控除、社会保険加入の関係でパート労働の方がメリットが大きかったりしますので、年収100万円程度に収入を押さえたいというニーズも強くあります。

 

 とはいえ、人口減少社会の中で、国は年収制限を撤廃して労働力を確保したい方向です。これに対し、主婦やパート労働者に頼っている業界などのからの反対は強く、綱引きが続いている状況です。

 ファミレスやスーパーコンビニなどの業界では、パートスタッフがいなくなれば根本的にビジネスモデルを変えなければなりません。この点は訪問系介護サービス業界も同様のことが言えるでしょう。

 

 パート労働者の扱いがどうなるか注視していく必要があります。

 

 

今後は柔軟な就労環境の構築が重要

 

 筆者は、いずれパート年収上限の撤廃がありえると考えています。

 しかし、もしも、パート年収上限を撤廃し、仮にすべての訪問介護員を正社員化するのであれば、訪問介護給付は今より20パーセント程度増加させなければならないと考えます。

 そうしなければ、事業者の撤退が相次ぐでしょう。介護保険制度の訪問介護サービスは継続できず、日本の在宅介護は崩壊します。

 

 日本のパート労働者を正社員化するためには、日本の労働者全体の賃金の上昇を前提としなければならないと考えます。

 

 20パーセントというのは、具体的には身体2(1時間以内)であれば5,000円程度の給付です。そうすれば、訪問介護員の給与は今のケアマネージャー程度になり、共働きの既婚女性などが働きやすい職業になると考えます。

 

 蛇足ですが、そもそも、ケアマネージャーよりも訪問介護員の方が給与が安いという考え方はそろそろ変えた方が良いのではないかと考えています。

 家事援助が別のサービスに移行し、訪問介護員は身体介護や医療的ケアなど高度なサービスに特化すれば、20パーセントの賃金上昇は吸収できるのではないでしょうか。

 

 訪問介護のサービス内容の高度化と給付上昇を同時に行えば、訪問回数が減りますので、スタッフ不足も解消するかもしれません。正社員化しても日本の訪問介護サービスがとん挫することは避けられるでしょう。

 

 とはいえ、現状のビジネスモデルとしてはパートスタッフを活用するべきですし、訪問系の事業者としてはパートさんを確保し定着させる方策に取り組まなければならないと思います。

 

 また、パートさん獲得定着の取り組みは、正社員の獲得定着の取り組みにも繋がります。今後は、週休3日制や短時間正社員などの制度が整備され、多様な働き方ができる社会になってくると考えていますので、労働者のライフスタイルに応じた柔軟な就労環境の構築がスタッフ獲得の肝となってきます。

 

 

 

訪問系スタッフは不安を感じやすい

 

 それでは現状でのスタッフの獲得定着について、何が重要なのでしょうか。

 

 通所介護や施設サービスと異なり、訪問スタッフは概ね一人で利用者を訪問し、サービス提供をしなければなりません。

 サービス提供責任者や管理者が同行訪問し指導をしますが、最初の方だけです。

 一方、ご利用者の状態は日々変化するものであり、その変化に対応した適切なサービスを提供することが求められますので、訪問介護員や訪問看護師はそれなりの知識と技術が必要となります。

 

 しかし、知識や技術がしっかりしていても一人では対応に悩むことは当然あります。施設など複数でサービス提供している現場であれば、その場で他のスタッフに相談し、対応することができますが、一人ではそうもいきません。当然、仕事に対する不安を抱えることになります。

 

 一人前の訪問スタッフとしてご利用者宅で不安を抱えずに仕事ができるようになるためには、場数が必要ですし、育成にはきめ細かい指導が必要になってきます。そうでなければ、スタッフはずっと不安を抱えたまま働くことになり、職場の定着率は低くなります。

 

 スタッフの定着にはこの不安をいかに解消し、安心して働けるようにするかが重要となります。

 

 次回は訪問系スタッフが安心して働ける職場づくりについて紹介します。

 

 

介護人材不足はいつまで続くのか その2(将来の予想)

◆外国人労働者受け入れは人手不足の救いになるか

 

厚生労働省、は経済連携協定(EPA)による東南アジア3カ国の介護福祉士に、訪問介護を解禁することを決めました。2017年4月からの実施を目指すそうです。

http://www.jiji.com/jc/article?k=2016080500036&g=eco

 

移民の受け入れは人手不足と経済成長の奥の手と言われています。

移民による人口増加を経済発展に繋げてきた国と言えばアメリカ合衆国がその代表でしょう。ヨーロッパ諸国(EU)も同じような移民政策を展開してきましたが、今、このやり方は過渡期を迎えています。ご存知のとおり、イギリスのEU離脱です。イギリス国民は移民の受け入れを拒否しEUからの離脱を決めました。

 

日本は移民についてはかなり厳しく制限してきた経緯があります。歴史的に多民族が交わって社会を作っていく構造にはなっていませんので、アメリカのような移民政策を国民が簡単に許容することは考にくいと思います。

 

私個人としては、多様な民族が交じり合うことは、地球上に住む人間という種族にとってはごく自然なことであり、風土の保全としっかりした語学教育が可能であれば拒むことではないと考えています。

 

しかし、現在、在留外国人の就労制限は厳しく、仕事のために在留を認められているのは通訳など一部の職業のみです。当然、EPA以外の介護福祉の仕事で在留許可を得ることはできません。留学生がアルバイト(時間制限あり)で介護福祉の仕事に就くことは可能ですが、語学留学できている外国人ではコミュニケーションのレベルが問題になります。

日本語の習得は外国人労働者にとっては大きな壁でしょう。ヨーロッパでも移民の語学レベルが大きな問題となっており、質の高い労働力に繋がっていないという指摘があります。

 

日本人と結婚していたり、家族がいる人は就労が可能です。現状でもこうした許可により多くの外国人が介護施設等で働いていますが、この方法でも人手不足の解消につながるほど多くの労働者を確保できるとは思えません。EPAによる介護職の受け入れも2016年までで2,000人程度です。ほとんど意味を成す数字ではないでしょう。

 

 

◆人手不足はいつまで続くだろうか 予想してみる

ここまでの考察を踏まえて、今後の動向を整理したいと思います。

 

1 今後、急激な円高などによる企業会計の悪化は考えにくい

 現在、日本とアメリカの経済格差は広がりつつあります。現状、1ドル100円程度が今後、米国の利上げなどにより長い目で見ると円安に進むと考えられています。しかし一方で、日本は人口減少によりデフレが緩やかに進んでいくという考え方もあり、デフレの場合は円高になりますので、ドル円が急激に大きく変動することは考えにくい状況です。

 ドル円が安定的であれば、日本企業は緩やかに収益拡大をしてくと予想されます。

 

2 日本の労働人口の低下により労働者需要はさらに増加

 1億総活躍と政府が言わなければならないのは、まさに日本人が減ってしまうことが原因です。労働需給はさらにひっ迫することが予想されます。

 

3 外国人労働者の受け入れ拡大(移民の受け入れ)は相当の時間がかかる

 国内で移民の議論ができるようになるまで相当の時間が必要と考えます。今はどの政党も触れたくないようです。

 しかし、労働者不足は待ってくれませんので、将来、介護サービスが受けられない介護難民が大きな社会問題となるようであれば、議論が始まるかもしれません。

 現状のEPAの枠組みを超えて、日常会話レベルの日本語能力を持つ外国人介護労働者を大量に受け入れられるようになるのは、かなり先のことでしょう。

 

4 賃金上昇による効果は限定的

 政策的な賃上げによる効果はある程度期待できます。しかし、介護福祉業界だけではなく他の業種も相対的に上がるので、全体として人手不足の解消に繋がるか疑問があります。処遇改善加算をどこまで上げることができるか。消費増税、医療や年金など他の社会保障コストの関係により、介護福祉の方にどれだけお金を回せるかによると考えます。

 このままでは介護難民が深刻になることを、介護福祉業界全体でアピールしていくことが重要でしょう。

 

5 人型ロボットが介護士の代わりをしてくれるのは難しい

 ロボットの活用では、いわゆる人型ロボットより、先進的なリフトなどの開発により、移乗や移動を利用者自身がコントロールできるシステムや、排せつを自動化できるベッドなど、介護職員に頼らない福祉用具の開発の方が、人手不足には有効だと思います。

 ベッドからお風呂まで利用者や家族がリモコンを操作して、オートーメーションで移動できたり、ベッドがそのままお風呂になってしまう構造であったりと、介護労働を軽減する福祉用具は今後さらに開発が進むでしょう。

 

6 多様な業界で人を必要としないサービス提供の仕組が開発され発展する。

 介護だけでなく、無人運転車(タクシー・宅配便など)の実現。ICタグや自動決済システムの利用拡大により、巨大な自動販売機と化すコンビニやスーパー。店員のいないファミリーレストランやファストフード。人型ロボットのショップ店員。などなど、ろいろなサービスを自動で提供できるシステムが今後、開発され普及するでしょう。

 こうした自動化は日本人が非常に得意とする分野です。回転ずしなどはその先駆けと言えます。

 こうした自動化により介護以外の業界で人手不足が解消すれば、それが介護福祉業界の人手不足解消の決定打となるかもしれません。

 

◆今後なくなってしまう仕事

人手不足解消の決定打は、多様な業界でサービスの自動化が進み、人手を使わなくてもサービスが提供できるようになること。それにより、日本全体の人材不足が解消され、介護業界にも人が流れてくることでしょう。

多くの企業で、企業収益を上げるための自動化の取り組みは、今後一層の盛り上がりを見せるでしょう。政府も強力にバックアップするはずです。特にパート労働者を活用してきた分野では進展が激しいのではないかと考えます。

 

 米国で発表された、今後、機械や人工知能が奪う職業ランキングの上位15位を見てみます。

1 小売店販売員

2 会計士

3 一般事務員

4 セールスマン

5 一般秘書

6 飲食カウンター接客係

7 商店レジ打ち係や切符販売員

8 箱詰め積み降ろしなどの作業員

9 帳簿係などの金融取引記録保全員

10 大型トラック・ローリー車の運転手

11 コールセンター案内係

12 乗用車・タクシー・バンの運転手

13 中央官庁職員など上級公務員

14 調理人(料理人の下で働く人)

15 ビル管理人

 

こうした仕事がなくなる一方、介護などの直接的な対人援助の仕事は残るといわれています。コミュニケーション技術や身体接触も含めた援助技法により、一人ひとり個別に支援するサービスはなかなか自動化できない分野です。前述の福祉用具の進歩による自動化は、コストがかかり、一部の施設やお金持ち以外利用できません。通常の在宅介護や認知症介護では今まで通り、人手が無ければ難しい状況は続くと考えます。

 

◆仕事の自動化が進めば今度は失業者が増加

自動化により人々が職を奪われる状況が、今後10年程度で明らかになるかもしれません。

有効求人場率は低下し、労働市場は買い手市場に転化するでしょう。失業率が上がり人々が職を求め始める時代が来ると、介護福祉分野の人手不足も解消することが予想されます。

しかし、あと5年程度は今の状況が続きそうです。その間に我が国の介護福祉サービスが人手不足で破綻しないことを祈ります。

 

 

 

 

介護人材不足はいつまで続くのか その1(原因の考察)

「介護人材不足はいつまで続くのか?」

結論を先に言ってしまうと、今後10年程度で人材不足は解消するのではないかと、私は睨んでいます。さらに言えば、将来は労働者が余ってしまう時代がやってくるかもしれません。

まず、現状の人手不足の原因について考察してみたいと思います。

 

◆介護福祉の経営にとって、人手不足は事業成長の大きな阻害要因

 

28年6月の全国正社員有効求人倍率は0.88倍。東京は2.05倍となり、高度経済成長末期の1974年5月(2.23倍)以来の高水準となっています。

 

介護に限らず、運輸や建築業などを中心にあらゆる方面で人手不足が顕在化しています。

友人のトラック運転手は休みが週に1度しかなく、夏休みもない状態で働いているとぼやきます。運送業では荷物があれば誰かが運ばねばならず、遅れればクレームになるのでやらざるをえないそうです。

 

人手不足は労働環境の悪化につながります。より良い処遇を求め、離職によるさらなる人手不足の悪循環が発生します。人手不足による過重労働が原因となり、介護福祉現場では虐待なども発生します。

 

そして、この事業の場合、働き手がいなければイコール事業が成長しないことです。人が集まれば新しい事業を次々に展開することも可能でしょう。最近では人が集まらないために、特別養護老人ホームの公募で採択されたのに、辞退したという話も聞こえてきます。

 

 

◆人手不足の原因は何だろう

 

現状における、日本全体の人材不足は、団塊の世代の大量退職と、バブル崩壊・リーマンショック以来の人件費削減の反動。円安による企業会計の好転。中国をはじめとしたアジア諸国の人件費高騰による、仕事の日本回帰。震災復興需要。ITなどの産業ニーズの変質に人材開発が追い付いていないなど複合的な要因が原因として挙げられるでしょう。

 

政府は労働需要が高いことはアベノミックスの成果と言っていますが、需要が高いのに賃金が改善されなければ、国民の所得は改善されないばかりか、介護・運輸・建築など、もともとの賃金水準が低い業種にしわ寄せが来るのは避けられません。

 

全体の賃金が上がれば企業は人件費を抑えますので人材不足も改善されるかもしれません。現政権は最低賃金の改善を打ち出していますが、現状ではまだまだ効果が出ていません。

 

ちなみに、最低賃金の国際比較では日本は先進国でも最低レベルのようです。

(2015.12.10産経新聞調べ)http://www.sankei.com/west/news/151210/wst1512100006-n1.html

 

オーストラリア 1,517円

フランス 1,265円

英国(21歳以上) 1,256円

ドイツ 1,118円

米国(平均) 892円

日本(平均) 798円 現在は823円

 

最低賃金は物価との関係もありますので、賃金が高いから国民が豊かとは一概には言えません(最低賃金が高い国は比較的物価も高いようです)が、デフレから脱却して賃金と物価を上げたい日本政府としては最低賃金1,000円を目指しているという声も聞こえます。

 

最低賃金の上昇は、かつて経済団体からの反発が強く、なかなか上げられない状況が続いていました。日本はコンビニやファストフード系の企業などパート労働者の活用により成長してきた企業が多く、最低賃金の引き上げは人件費コストにダイレクトに響きます。そのため、反対してきた経緯があります。

 

しかし、現在、都市部を中心に、こうしたパート労働者自体が集まらず、企業自らが時給を上げざるを得ない状況になっています。都市部では、最低賃金ではパートさんをなかなか雇えない状況でしょう。

 

東京郊外にオープンした巨大ショッピングモールで熾烈なパートさん獲得合戦が繰り広げられたというニュースは、もう3年も前のことです。

http://www.nikkei.com/article/DGXNZO63355220Z21C13A1L71000/

今も、この状況はあまり変わっていないようです。

 

現在、首都圏の介護福祉業界のパートさんの時給は1,000円以上になって来ています。しかし、他の業種のパートさんも1,000円を超えて来ていますので、仕事の内容から介護福祉業界は分が悪いと言えます。特に若い人にはおしゃれなショップ店員などの方が魅力的に映るでしょう。

 

◆国は「2020年代初頭に向けた総合的な介護人材確保対策」を発表

 

厚生労働省は3月に、介護人材不足対策を打ち出しました。介護職の社会的な地位を引き上げることや、介護の仕事に戻ってくることを促進するような対策を打ち出しています。

 

介護人材の確保につい」 厚生労働省資料

 

処遇改善や助成金など税金を投入することで人材確保を目指すことは、ある程度の成果を上げるかもしれません。しかし、前述のとおり人材不足は介護業界だけではありません。政府も介護福祉分野だけ優遇することはできないでしょう。建築や運輸の分野で国土交通省や他の省庁も人材確保の対策を打ってきます。

 

高齢者や主婦など未就労層を開拓して労働者を増やすことで、人材は増えるかもしれませんが、限界があると私は考えます。人口が減り続けているわが国では、限られた人材をみんなで奪い合う状況は、今後も変わらないのではないかと考えます。

 

次回は、外国人の受け入れやロボットの導入などを見据えて、介護人材不足がどのように解消するか考えます。